The Wind of Andalucia 〜 inherit love 〜 13. バルドー館 バルドーの館の裏木戸から、マリアの手引きで、館内へと侵入を開始するクルー達。 館の藤棚がを見つけ、歓迎するかのように、花を揺らし香りを届けた。 藤棚の下にバルドーの面影を探すが、居るはずもなく、の胸がきりっと痛んだ。 「さぁ…様、こちらです。こちらから、ゆっくりと……」 本来ならば、正面から堂々と、館内に入りたいところだが、それも今は出来ず、 裏口から、こっそりと忍び足で歩くのだが、やはりルフィが騒動を引き起こした。 裏口に隣接する厨房から漂う甘いおやつの香りに、ルフィの神経は集中し、散漫な歩き方となり 階段下で周囲の様子を伺うわずかな時間に、首だけを器用に伸ばして、香りの出所を探る。 香りの出所を突き止めたルフィの目がキラキラと輝き、口が大きく開けられおやつを丸呑みしようとした時、 伸びきった首が、廊下に飾られた花瓶を落とした。 ”がっしゃーーん”静かな人気の無い館内に、響き渡る花瓶の砕け散る音。 慌てたルフィの首がぎゅんと元に戻った。 「悪ィ。気にすんな!」 と、頭をぽりぽりと掻き、悪びれないルフィに 「ルフィ!!?」 「てめェークソやろー!!!」 「なにしてくれてんだ!!!」 「ヲイ!気にするつーの!!!」 「ギャーもうダメだ!!!」 それぞれの声無き罵倒が続く中、 「誰なのよぅ??」 のっそりと、見るからに顔はバルドーなのだが、明らかに雰囲気の違うバルドーが現れた。 「ちっ!やるぞ!!」 「おうっ!」 年長組二人が、素早く戦闘態勢に入るが、 「なぁ〜んだ!ムギワラちゃんじゃなぁ〜いのよぅ!!あちしよ、あちし。 遅いわよぅ、遅い!あちし、待ちくたびれちゃったわよぅ!!」 地団駄を踏み、聞き覚えのある変な口調で話すバルドー。 クルー達を逃がすために、囮となり、海軍に捕まったはずの、ボン・クレーだった。 「「「「盆ちゃん!!!!」」」」 「盆ちゃん!!!無事だったのか!!?」 「その節は、ありがとう!」 次々に盆ちゃんに駆け寄り、おいおいと泣きだしたり、お礼を言ったり、忙しいクルー達。 遠目に見守る、ゾロ、ロビン、ナミに安堵のため息が漏れる。 「ちょっと、ちょっと、声がでかいわよぅ。こっちこっち、いらっしゃいよぅ」 ひとしきりの再会の喜びの嵐に巻き込まれた盆ちゃんが、クルー達を制し、手招きをする。 「ボン・クレー、隠し通路を通りたい。時間がないのだ。王宮へ直ぐ行かねば」 は、きゅっと眉間にしわを寄せ、焦りを含んだ声で話した。 「分かってるわよ〜ん。まっかせなサイ」 バチンっと、ウインクをして、先導する盆ちゃん。 隠し通路まで走りながら、会話がなされた。 「で、どう言う事なんだ?」 サンジがタバコをくゆらせながら、ちらりと盆ちゃんに視線を向けた。 「話せば長くなるのよぅ……」 盆ちゃんの話は、兎角長くなるので、抜粋するとこうである。 海軍ヒナ嬢にあっさり捕まり監獄送りとなったが、海軍大将ギアスに、「自分の手伝いをするならば」 との条件付きで、釈放されたのだった。 「その内容聞いてびっくらコイたわ。まさか、のお守りのバルドー役だなんて あちし、回っちゃったわよぅ」 「だからねぃ、あちし考えたのよぅ、は友達ジャナ〜イ?。 ここで、あちしが、バルドーのふりしてたら、絶対、ムギワラちゃん達が、 やって来た時に、何かの役に立つと、思ったのよぅ」 「盆ちゃん、おめェいいヤツだなァ」 「だって、あちし達、友達ジャナ〜イのよぅ」 がしっと、腕を組み合う盆ちゃんとルフィ。 「ジョ〜だんじゃナーイわよーう」 得意のフレーズを、ウソップ、チョッパーと共に、踊りだした。 「え〜い!!うるさい!そんな事してる場合じゃないでしょう!!」 ナミがを思いやって、拳骨をとばす。 「とかなんとか言って、逃げたかっただけだろうが」 ゾロが図星の言葉を呟く。 「なんなのよぅ、イジワルねぃ!!ぷんぷん」 「なぁ!海軍大将ギアスってのは、何なんなんだ?」 「はっ!大方、偽物の後ろに控える、真の敵つ〜ヤツなんじゃねェ?」 「海軍大将か……。相手にとって、不足はねえ」 腰に携えた三本の刀に手をかけ、にやりと笑うゾロ。 「そうだな……。王宮の兵士相手に戦うより、ましだな」 ゾロの視線をちらりと送り、の背中を見て、の心中を思いながら呟くサンジ。 「よ〜し!!海軍、ブッ潰すぞ!!」 ぐっと帽子を目深に被り直し、ルフィの真剣な声がかかる。 「おうっ!」 「おうっ!」 切り込み部隊に、気合が入った。 間もなく、バルドーの書斎の壁に、巧妙に仕込まれた隠し扉の前に、着いた。 「ボン・クレー、扉の鍵は?」 手を差し出し、盆ちゃんの急かす。 「は!?ごめんなちゃ〜い。あちしあちし、忘れちゃったわよぅ」 おろおろとしながら、に詫びる。 「ちっ!どいてろ!!」 ”キィーン”ゾロの鬼徹が走る。 「おうおぅ、てめェ、ますます人間ばなれしていくな」 真っ二つに裂け、がたりと崩れ落ちる壁からを庇いながら、サンジが、にやりと笑った。 「ほっとけ!」 ゾロも、にやりと笑い返した。 かび臭く暗い階段を、天井左右の壁にむした光こけの一種が、ほのかな明かりを放つ。 そのわずかな明かりを頼りに、慎重に一歩一歩降りていく。 「歩くのかったるいジャなァ〜い、改良してあるからねィ」 「改良!!?」 「これよぅ、ぜんまい仕掛けで動く、びゅ飛び!スワンだ号よぅ」 じゃっじゃ〜んと得意そうに盆ちゃんの示した先にある物は、何とも奇妙な形の乗り物だった。 狭い階段を降りた先のひらけた場所に設置された、一見すると水上を足こぎで進む白鳥型のボート。 多少の改良型らしく、天井は取り払われ、全員が余裕で乗れる大きさ、 足こぎのペダルは外され、ボートの横に車輪が6個、レールの上を走るようになっていた。 「お〜盆ちゃん!!すげェ〜〜〜〜!!!」 ルフィ、ウソップ、チョッパーの目が、キラキラと輝いた。 「で、誰がぜんまい回すんだ?」 胡散臭いものを見る目つきで、ゾロが尋ねる。 「そうよ、それなのねぃ」 きゃっきゃっと、はしゃぐルフィ達と一緒に踊りながら、盆ちゃんがゾロを振り返る。 「ウソップ!チョッパー!!任せた!!」 ナミがきっぱり命じる。 「オイ!!!」 ウソップの手刀が空をきる。 「あ〜〜〜〜うるさい!!あんた達しかいないでしょう!!」 「ちょっと、ちょっと、待ちなさいよぅ!!これは100回きっちり巻いて、 どっぴゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!と、行くのよぅ」 「て事はだ……。巻いて、止めておくのが辛ェな」 コンコンと、スワンだ号の車体を叩き、強度を調べるウソップの様子を見ながら、サンジが呻いた。 「もう!!!あんた達、ごちゃごちゃ言ってないで!!!さっさと、巻きなさい!!」 ナミの顔が、見る見るうちに、鬼顔へと変貌していく。 「は〜〜〜い!!ナミすわぁ〜〜〜ん!!」 ひぃ〜〜と、悲鳴をあげるウソップ、チョッパーを尻目に、サンジが陽気な声をあげる。 チョッパーが15、ウソップが15、ルフィが20、サンジが20ぎりぎりと、巻いていく。 「……くっそっ!!マリモ!!!次、頼む!」 ぎりぎりと巻かれたねじまわしは、跳ね返す力が強く、サンジの手はぶるぶると震えている。 ゾロが、素早く代わり、更に30回巻いた。 馬鹿力のゾロの肩が、震える。 「おい!早く乗れ!!」 喉から絞り出すようなゾロの声に、わらわらと乗り込むクルー達。 「みんな、乗ったか!!?」 「おい、てめェも早く乗れ!!って、乗れねェじゃん!!」 ねじまわしを支えるゾロが乗れるはずがない。 唖然とするサンジの声に、顔を見合わせ、ウソップとチョッパーが飛び降りねじまわしに手を掛ける。 「ランブル。腕力強化」 「ここは、おれとチョッパーが、支える!!ゾロ!!!早く乗れ!!!」 「頼んだぞ!」 かろうじて、ぎりぎりの力で、ウソップとチョッパーが支える。 「あ〜〜〜〜〜〜もう、限界だぁぁあああああああ いっくぞォーーーーーーーーーーーーーーーーウソップ!!手放し!!!」 ”どっびゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーん” 「びゅ飛び!スワンだ号」は、レールの上を、爆走して行った。 「いやっほ〜〜〜〜い!!!」 「うわぁ〜〜〜気持ちいい!!!」 「ほう、中々、速いな」 「あぁ」 周りの壁が矢のような勢いで、見る見るうちにレンガ造りから天然の岩盤へと様相を変える。 光こけの明かりでは、左右の壁がスワンだ号のぎりぎり通れる隙間であることしか分からなかった。 がたがたと、揺れるスワンだ号、つかまる先のない車内で頼りになるのはサンジだけで の手は自然にサンジに絡まる。 「なぁ…聞きてェんだが、何でオカマは、バルトーとやらに変身出来るんだ?」 相変わらずの三白眼で、ゾロが尋ねた。 「ちょっと、あんた失礼ねぃ!!オカマってやめてよねぃ!!ぷんぷん!! あちしは、BWの時に、バルトーになって、アンダルシアに侵入する計画があったのよねぃ だから、バルドーも、この手で触ってんのよぅ!!!がーはっはっはっ!!」 頭に腕をM字型にあて、陽気な笑い声をあげる。 「クロコダイルも……アンダルシアを狙ってたって、事か?」 に掴まれた腕から伝わる熱に、くらっとしながらサンジが呟く。 「ふふっ、その可能性はあったわね」 物静かなロビンが口を挟んだ。 「それにしても、ミス・オールサンデーまで、ムギワラちゃんのとこにいると、思わなかったわねぃ」 「ふふふっ」 ロビンは、お互い変な海賊が気にいったわねと、いった意味合いの微笑みを、盆ちゃんに向けた。 「ねぇ、盆ちゃん、これはどのくらいで着くの?」 スワンだ号のスワン頭頂部に座るルフィに、降りろ!と怒鳴りつけながら、ナミが尋ねた。 「そうねぃ、すぐよ、すぐ!!」 「ちょっと、いいかしら?これは、どうやって止めるの?」 ロビンが、おもむろに尋ねた。 「ブレーキはねぃ、その棒を、引っ張るのよぅ。あっ!!!!もう、ブレーキ地点よ!!! ブレーキ!!!!!ブレーキよぅ!!!」 左右の壁に天然の光る石版を埋めこんだ地点を通過し、慌てふためく盆ちゃん。 力任せに、ブレーキをかけるゾロ、サンジ。 ”ギィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー” 車輪と、レールの擦れる音が響き、火花が薄暗闇に飛び散る。 ”ギィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー” スワンだ号のスピードは止まる気配を見せず、下り坂にますますスピードがあがった。 「ありゃ?おかしいなぁ、止まんねぇぞ?」 スワン頭頂部に座るルフィが、首をかしげて不思議そうに、盆ちゃんを振り返った。 「ジョーだんじゃなーいわよう」 地団駄を踏み、慌てる盆ちゃん。 「キャーーーーーーぶつかる!!!!」 ナミの目がぐるぐると回る。 クルー達の視界に、目前まで迫る壁が映し出された。 「ゴムゴムのーーーーーーふうせん!!!」 ルフィの身体が、膨らみ、びゅ飛び!スワンだ号の前に張り付いた。 ”どっかーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!” ”ぼよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!” 「!」 激突の瞬間、サンジがを抱きしめ転がり、衝撃で全員投げ出された。 辺りに散らばるスワンだ号の破片と渦巻く土煙。 「もう!!!ゾロ!!!あんた、ねじ巻くのに、力入れすぎ!!!」 と、ぱんぱん服の埃を叩きながら、ナミが喚いた。 「あぁーん!!俺は、30回しか巻いてねぇ!!」 かちーんと、青筋を立て、正論で応酬するゾロ。 「うるさい!!筋肉バカ!!!」 ゾロに庇われて、大した衝撃も受けていないのに、ナミはさらに文句を言う。 「、大丈夫か!?」 抱きしめた身体の柔らかさに、はやる鼓動。 「あぁ、サンジのおかげで、助かった」 サンジのタバコの香りに包まれるような錯覚に、回された腕の力強さに、はやる鼓動。 「……」 「あいがとう」 何やら言いたげな表情で、みつめあう二人に、クルーの声が掛けられる。 「お二人さん、そんな事してる場合かしら?」 クールに呆れ顔のロビン。 「しっしっしっ、すっげェ〜〜〜〜〜おもしろかったな!」 かなりの衝撃を受けたはずなのに、笑うルフィ。 「おい!ラブコック!ンな事してる場合か」 うるさいナミの相手をするのが面倒臭く、また二人の雰囲気に呆れ顔のゾロ。 「んだと!!」 ゾロの言葉に反応し、いつものじゃれ合いの喧嘩を始めそうなサンジ。 「あ〜〜〜〜!!!もう、うるさい!!! だいたい、あんたが、あんなもん作るからいけないのよ!!!」 ゾロに文句を言う筋合いじゃない事は分かっているナミが、当たる矛先を盆ちゃんに変えた。 「ジョーだんじゃナァーイわよぅ!あちしのせいにしないでよぅ!!」 ちょっぴり自分のせいかもと、思っていたが、認めたらナミの拳骨を喰らいそうで、 必死でかわす盆ちゃん どたばたと、まるで緊迫感のない漫才を続けながら、王宮へと続く階段を駆け上がった。 出た先は、王の住まいのある棟の中庭。 「、どっちだ!」 の緊迫した雰囲気に呑まれたサンジが尋ねた。 「こっちだ!!」 先頭を、盆バルトーとが駆け出し、それぞれの瞳にそれぞれの思惑を秘めたクルー達が、後を追う。 時刻は、2:30 処刑の時刻が迫る。 王宮内は、前庭にほとんどの人が集まっているのか、人気がなかった。 |