The Wind of Andalucia    〜 inherit love 〜

14. 処刑台



前庭の大扉の前に立つ、王宮の門兵。その周囲に騒然と嘶く近衛兵とアンダルシア兵。

見たことも無い近衛兵と盆ちゃんの化けたバルドーを従えたの姿、
つい先程、大扉の中に、海軍大将ギアスと共に消えたはずの殿下が何故ここに…と、
兵達の中にさざ波のように動揺が広がり、誰もの脳裏に噴水の広場での出来事が蘇る。

目の前に立つの瞳の輝き、全身から滲む本物のオーラに、気付く数名の者。

「お待ち下さい。殿下……」
戸惑いの表情を見せる門兵が、をまじまじと見つめ言葉尻を濁す。

「扉をお開けなさい!!」
少しだけ苛立ちを帯びた声。
きつい光を帯びたの薄紫の瞳が、さらに光を増した。

「ですが……」
の射抜くような眼光の鋭さに、もはや後ずさりしか出来ない門兵。
門兵の胸中に渦巻く猜疑心が、さらに門兵の身体を凍りつかせて行く。

「さっさと、ここを開けなさい!私の命令が聞けないのか!?」

本物の持つ気品が漂うりんと澄んだ声は、門兵の疑いを晴らし、
周囲の近衛兵アンダルシア兵の疑いも晴らし、歓喜の声の中、大扉が開け放たれた。



前庭に溢れかえる海軍兵士、前庭の中にアンダルシア兵近衛兵の姿は皆無で、
処刑が海軍の指図であることに、確信めいたものを感じさせた。

誰も通すなと命じられた大扉が放たれ、何事かと溢れる海軍の目が、一斉に注がれ、
そこに予期せぬの姿、
後に従う近衛兵のマントを脱ぎさった麦わら海賊団を見つけ、その場の者全てに一瞬の沈黙が訪れた。

「道を、お開けなさい!!!海軍!!!」
命令することに慣れたの声に、命令されることに慣れている人垣が、さっと割れ、

斜め上に顔をあげたの目に、前庭を見下ろす形で作られたバルコニーにある王家貴賓席、
王の席に座る偽者、傍らでふん反り返る海軍大将ギアスと、派の重臣の姿が入り、
正面に設置された処刑台のライル王子の姿が飛び込んだ。
十字にかけられ、罪人の服を着せられた、若き獅子。

ライルの瞳に浮かぶ驚愕と希望。の瞳に浮かぶ憤怒と後悔。そして、安堵。
余りにも酷い海軍の仕打ちに、のライルの胸中を思う心が、きりきりと痛む。

は、背中に感じるクルーの視線に励まされ、真っ直ぐに貴賓席を、薄紫の瞳に決意を籠め睨み
携えた剣グラムオブハートを高く掲げ、聞く者を凌駕する声で、高らかに宣言し命じた。

「海軍大将ギアス!私こそが、本物のバーリー・キア・
 この、王家の剣グラムオブハートが証拠。この紋章が、本物の証!

 さぁ!そこの海軍兵士、アンダルシア皇太子の名のもとに命ずる!!
 ライル王子の縄を、解きなさい!!!」

きんと張り詰めた空を切り裂く、野心という欲望を含まない真摯なの声。

海軍兵士に動揺が広がっていく。

負け犬の遠吠えか、憤怒を隠そうともせずに、己の過ちも認めず、野心と保身のみで命令するギアス。

「くっそぅ!今一歩のところであったのに!!
 ええーい!!海軍兵士!!王家がなんだ!本物がなんだ!!さっさと、かたづけんか!!!!
 わしが、この国を支配するのだ!!!

 このままでは、わしに付いて来たお前達も、罪は免れんぞ!!!!

 相手は、麦藁一味だ!!!海賊だ!麦藁一味を、討って、名を挙げろ!!!!!」

ギアスの言葉が海軍兵士を、奮い立たせ、     

”ウォーーーーーーーーッ”
怒涛の叫びとともに、海軍兵士の各々が持つ武器の矛先が向けられ、激闘の合図となった。


相手は海賊と、ものの見事に論点をすり替え、部下をたきつける厭らしさに、
の瞳が更なる光を帯びた。

     これが、絶対正義を掲げる海軍のやる事なのか。
     海軍大将たるものの言う言葉なのか。
 
の心に残っていたわずかな海軍への信頼は、音もなく崩れ落ちた。


「やれやれ、腐った海軍大将だな」
の背中に視線を定めたままで、タバコをぎりっと噛み潰すサンジ。

「あぁ、まったくだ」
チッと鯉口をきり、三本の刀を構えるゾロ。

「よ〜しっ!やるか!!!」
しっしっしっと、笑いながらも目は真剣なルフィ。

「やっちゃいなさい!!!」
混乱の時代の流れなのかと呆れ、海軍がベルメールさんのみかん畑を荒らした時のことを思い出すナミ。

殿下、目指すは処刑台」
普段のクールな面をくつがえすかのような声のロビン。

「見せてやるわよ!!オカマの意地!!!かかってこいや!!!」
さっさと変装を解き、ダチのために命を張る盆ちゃん。

クルーの視線が交差し、瞬時に、戦いが始まった。



切り込み部隊が、道を切り開く。

サンジの蹴り。
ルフィのゴムゴムの鞭
ゾロの鷹波
圧倒的な強さで、敵を排除して行く。

その後を、サンジの背中だけを見つめ、駆けていく

殿下!!覚悟!!!」
腐った大将の下につく部下も、やはり腐っているらしく何の迷いもなく、の背後から斬りつけてきた。
前だけを見ていたの反応は遅れ、振り返った時には、振りかざされた剣の下に位置し、
剣を構える余裕が無い。

!!!!!」
サンジの気が、目の前の敵から一瞬それ、を庇おうと身体が動くが、目前の敵はそれを許さず
サンジの隙をつき、槍でなぎ払ってきた。

「ちっ!!??」
迫る槍、仰け反り避けようとするが、間に合わない。

「白鳥アラベスク!!」
横から盆ちゃんの蹴りが、サンジの前の敵を、吹っ飛ばした。

"三十輪咲き"トレインタ・フルール!ストラングル!」
ロビンの手が咲き、の背後の敵は、あっさりと倒されていくのが、サンジの目に入った。

「な〜にやってんのよぅ!」

「あぁ、助かった!!」

「あちし、プリンスちゃんのタコパが食べたいわ〜ん」

「あぁ!いくらでも喰わせてやるよっ!!これが終ったらな!!」

サンジの胸中に安堵が沸き、盆ちゃんに感謝の視線を投げ、冗談めいた会話をしながら、敵を沈めていく。



辿り着いた処刑台の上で、二人の海軍雑兵が、ライルを護っていた。
変な髪形の雑兵が、鼻水涙でぐしゃぐしゃになりながら、処刑台に手をかける仲間の兵士を叩き落とす
めがねの雑兵は、味方であるはずの兵士に、ボコボコにされながらも、やっとの思いで
十字にかけられたライルの縄を切る。

「ライル王子!!!」

殿下!!!」

絡まる視線の中にお互いの存在の大きさを感じ、高まる鼓動。お互いの無事を喜ぶ微笑が浮かぶ。
罪人の格好をしてもなお、失われない王者の風格に圧倒される
出奔前の影を落とした瞳を忘れさせるかのような、強い光を帯びた瞳に戸惑いながらも惹かれるライル。

「再会の喜びは後ですね。剣を私に!!」

「はい!ライル王子!!」

うやうやしく、グラムオブハートを差し出した。

「おっと!!お二人さん、危ないわよ!!さっさと、やっちゃいなさい!!!」
ナミのクリマ・タクトが、敵のサーベルを受ける。

ライルの手に渡ったグラムオブハートが、一瞬キラリと、輝いた。



「くっそう!!!あの時、お前を始末出来ていたならば、計画は成功していたのに!!!」
貴賓席から、飛び降りてきたギアスの太刀が、に迫る。

「ほひゃほひゃ、ライル王子、私の攻撃が受けきれますかな?」
もはや偽者であることを隠そうとせず、下品な笑い方、人格の厭らしさの滲み出た顔で、
貴賓席から、同じく飛び降りてきた偽者の剣が、ライルに迫る。

「海軍大将ギアス!!覚悟!!!」
間合いを詰め、上段から切り込む。

”カン”とはじかれる剣。

右手から振られる太刀を転がって避ける。

「無駄だ!!お前ごときの剣で、わしが討てるものか!!
 ほれっほれっ!!びゃぁひゃひゃひゃひゃっ!!!
 殿下。もうお後が、無いですぞ!びゃぁひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

次々とを斬り裂くべく、ギアスの太刀が猛威を振るい、は受け流すのが精一杯で、
自分の剣を、切り出す機会を見つけれずにいた。

大方の海軍兵士を地に沈め、を顧みる余裕の出来たクルー達の目に映るの戦い。

ギアスの上段から振り下ろされた太刀を、
”ガッシッ”と、同じく左斜め上段で受け止めるが、力の差は歴然。

ぎりぎりと力任せに、押し付けられる太刀を、はフッと力を抜き左に身を流し、
すかさず、左斜め下から斬り上げるが、太刀に受け止められ剣を弾かれた。

”キンッ”と、甲高い音をあげ、空に舞う剣。

受け止める術を持たない無力なの頭上に、ギアスの太刀が迫る。

「「「「「「!!!」」」」」
クルー達の悲鳴の中、目の前の敵ギアスを、きっと見据え、もはやこれまでかと、
斬り捨てられる事を覚悟した

”ドコーーーーン”
その刹那、サンジの蹴りが入り、ふっ飛ぶギアス。


、お前の敵は、偽者だ!!!海軍に手ェ出すな、こいつは、俺が、やる!!!」
の前に立ちはだかり、キュッとネクタイを締めなおすサンジ。

「サンジ!!!これは、私の……」
ロビンの咲く手によって運ばれた剣を手に、なおも前に出ようとするを、サンジの言葉が止め、
サンジの言葉の奥に隠された心配りに、の涙腺が緩む。

、お前が手ェ出すつ〜事は、国に関わる!どいてろ!!」
背に回した手でを軽く押し、両手をポケットに入れ、幾分猫背気味になり、
ギアスから視線を外さないサンジ。

背に語られたサンジの決意を、ありがたく受け取り、サンジの背に想いの丈を籠めた一瞥を与え
零れる涙をぐっと堪え、は偽者と対峙するライルの元へ駆け出した。

「びゃぁひゃひゃひゃひゃっ!!!麦わら、ロロノア・ゾロならいざ知らず、
 名も無き、お前如きに、この海軍大将が、討てるものか!!?」
明らかに、優男の風貌からサンジの技量を計りそこねたギアス。

”ブンッ”と唸る太刀を、腰をひねって避け

「言ってくれるね!クソッ大将!!」

サンジは、ギアスの太刀が繰り出す攻撃を、完全に見切り、上体を反らしたり、軽く跳躍したりして
避けながら、タバコを咥える。

「びゃぁひゃひゃひゃひゃっ!!!逃げるばかりでは、勝てんぞ」
己の太刀の前にサンジが攻撃出来ないと、誤った認識を持ったギアスが蔑む笑いをあげる。

「はぁ〜たりぃ相手……見くびられたもんだぜ、俺もよう!」
未来の大剣豪相手に日夜繰り広げられる喧嘩によって、鍛えられたサンジにとって、
ギアス程度の太刀の見切りなど、造作も無いこと。
ギアスが斬りつけてくる度に、湧き上がるこの男への嫌悪感、そして哀れみ。

「キサマ!!!何をほざいた!!!」
己の攻撃を全てかわされたが、まだサンジの戦闘力が自分より下だと、決め付けたギアスの顔に
憤怒と衝撃、一抹の不安が見え隠れし、次の瞬間、

「たりぃっつったんだよっ!!!」
爆発する怒り、蒼眼に凶暴な狂犬のような色を落としたサンジの攻撃が始まる。

"首肉"コリエ!!!」

"肩肉"エポール!!!」

"背肉"コートレット!!!」

"鞍下肉"セル!!!」

"胸肉"ポワトリーヌ!!!」

"もも肉"ジゴー!!!」

"羊肉"ムートンショット!!!」


次々と繰り出した蹴りの全てが、ギアスの身体に叩き込まれ、ギアスの身体は空を舞い、
ギアスの手を離れ空を舞った太刀がグサリと地に刺さり、身体がドサリと沈む。
ぴくりともしないギアスの身体に、サンジの決めセリフが吐かれた。

「けっ!デザート……出す気もしねェ〜」

咥えたタバコに火を点けながら、ニヤリと笑うサンジの蒼眼に、
苦戦するライルとの姿が飛び込んだ。
 



  

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