The Wind of Andalucia    〜 inherit love 〜

12. オキアニア潜入



GM号を洞窟へと導いた光は、いつの間にか消え去り、空は灰色の厚い雲に覆われ
鬱そうと茂る森の中を、ひたすら歩き続けるクルー達の目前の森が、すっと開け、
目の前にアンダルシアの大地が広がり、見下ろした眼下に、ついにオキアニアの城壁を認めた。

それぞれの瞳に浮かぶ信念、逸る気持ちを胸に、足早に斜面を駆け下りて行く。

の瞳に映るオキアニアの城下町、街のいたるところに残る争いの爪跡が、の心に影を落とし、
握り締めたグラムオブハートがぶるぶると震え、の心情をサンジに告げた。

サンジの眼に映るの背中、震えるグラムオブハートを見るにつれ、サンジの中で膨らむ思い。
争いの原因は自分だと自分を責めるに、慰めの言葉をかけるのは、容易いことだが、
それで、が納得するとは思えず、何も言わず、そっと肩に手を掛け、先へ進もうと促した。

街のあちらこちらに散らばる海軍と近衛兵アンダルシア兵に、自分達が本物の殿下と一緒だと
悟られぬように、慎重に大通りを避け裏通りへと足を運ぶ。



にわかな歓声に、何事かと、建物の影から覗き見ると、行進する近衛兵の中に王家のマントに身を包み
白い馬に乗り、にこやかに手を振る、偽者の姿を見つけた。
その遥か後方を、後ろ手に縛られ海軍に引きずられるように歩くライル王子の姿。

素早く飛び出そうとするを、サンジの腕が抱き止める。

!待った!!」
がしっと、身体に廻された腕はぴくりとも動かず、

「くっ!?」
きっとサンジを睨み、離せ!!と権力者のみ持つ視線で、命ずる

「切り込むか?」
チッと鯉口を斬るゾロ。

「くっそっ、遅かったかァ、、大丈夫だ!!このキャプテン・ウソップ様が援護する!」
足をがくがくと震わしながらも、ドン!と胸を打ち、パチンコを取り出すウソップ。

「オレも、頑張るよ」
眼に涙を溜めて、ウソップの足にしがみつくチョッパー。

「ダメよ。ここで騒ぎになったら、国民に犠牲が出るわ」
冷静なナミの意見に、サンジから逃れようともがくの身体がとまる。

「そう、ここでは手出し出来ないわ」

「しっしっしっ、そっか?!やっちゃダメか?」

緊迫の中でも、自分を見失わないルフィの笑顔に、救われる思いのから力が抜け、冷静さを
取り戻しつつあった。

海軍の軍曹らしき人物が、声高らかに、国民に何かを告げる。

湧き上がる歓声の中に罵倒の声が重なり、大通りの噴水のある広場の人だかりが、ざわざわと蠢き
海軍がざっと国民の上に、号外紙を投げた。



その時、広場の人だかりから、甲高い少女の悲鳴が聞こえた。

はっと見ると、偽者に向かって、泥を投げつけた少女が、近衛兵に捕り抑えられなおも
声を張り上げて、罵倒し続けている。

「あんたなんか!様じゃない!!!様の眼は、もっと透き通っているもの!!
 様の笑顔はもっと素敵だもん!!!」

ざわめく民衆が水をうったように、静まり返った。

思わず駆け出そうとするを、どんっとゾロの胸に突き飛ばし、サンジが駆け出した。
あっと言う間に、小さくなるサンジの背中に、の胸がきりりと痛くなった。

「小賢しい!斬って捨てよ!」
と、叫ぶ偽者の言葉に、躊躇いながらサーベルを振るおうとする近衛兵に、サンジの蹴りが炸裂した。

「大丈夫か?お嬢ちゃん。リトルレディーに手ェ出すなんっごっ」
ぱんぱんと、ふくらんだスカートのほこりを落としながら、偽者をグッと睨みつけ
戦闘態勢に入り、啖呵をきろうとしたサンジを、後からウソップが殴りつけた。

「き、キサマァ〜何をやっとるかぁ!!!」

「いってェな!!!てめェ〜!!!!」
凶悪顔で迫るサンジに、びびりながら、黙ってろ!と、目配せをして、
ウソップが心もち震えた声で、進言しだした。

「申し訳ありません!!!殿下!!!こやつはァ〜そのォ〜新入りでしてェ〜
 教育が行き届いておらず!!ご無礼致しましたァ!!」
ほれ!お前も謝れと、サンジの頭をぐいぐいと土に押し付ける。
どしんと、地面とキスをしたサンジがウソップを振り払おうとする眼の端に、ゾロに抱かかえられ
悲鳴を抑えるかのように口に手を当てたの姿が入り、サンジはぐっと堪えた。

「何、新入りとな……。誰の紹介だ」
胡散臭い近衛兵の進言に、眉間にしわをよせ、問いかける。

「は、はい!!バルドー殿でェ〜あります!!!!」
     うォ〜〜オレはバカかぁあああ!!!!
     バルドーがいるわけねェだろっ!!!!こん畜生目!!
たらたらと冷や汗を流し、自分の発言に自ら心の中でツッコミを入れる。

「ほほぅ……。バルドーか」
によく似た顔が、ぐにゃりと歪み、狡賢そうな微笑みを作る。

ちらりと見上げたサンジの瞳に映る偽者の顔、見た瞬間にサンジに虫唾が走る。

     けっ!何処がそっくりなんだよっ!!!
     全然似てねェ!!
もごもごと、口の中だけで呟き、傍らで震える勇気ある少女に安心させる笑みを見せた。

「は、はい!!!この少女共々、バルドー殿のその……この少女はバルドー殿の姪御さんでして
 バルドー殿から、連れて来るように、指示されてェ〜おります!!!」
     あれ?バルドーの名に変だと気付いてねェな?こいつ!
     おっし!オレ様の独壇場だァ〜!!!

偽者の様子に、多少落ち着きを取り戻し、次から次へと、ぺらぺらと、しゃべるしゃべる
そのしゃべりの巧みさに、偽者は、少女を懲らしめることに、興味を失った。

「ふん。そうか、まぁ良い。国民の犠牲はなるべく避けたいものだ。バルドーによく言っておけ!
 二度と、そのガキとその男を私のそばに近寄らせるなとな」

馬上に踏ん反り返り、偽者は王宮へと帰って行った。
その後に連なる近衛兵の浮かない顔、がっくりと頭を垂れたライルと無表情の海軍が続いた。

軍隊が過ぎ去った後に、残された民衆に、動揺がゆっくりと広がっていき
囁かれる声が、否応なしにクルー達の耳に届いた。

     ライル殿下が、何と言うことだ
     そんな事が、許されるのか
     いや、当然だろう、王妃のしたこたァ許されるこっちゃねぇ
     ばかな!ライル王子は、国民のために無血で城をあけ渡そうとなさったんだぞ
     王妃の首は、もうすでに捕られたではないか
     あの子は殿下を偽者と言ったぞ
     あぁ、ガキなどと、殿下のおっしゃる言葉じゃ無いよな
     何言ってやがる、あれが様じゃねぇわけないじゃろが

国民の犠牲を思い、ライル王子が無血で終らせるつもりであった争いを、王妃が蒸し返し、
王妃共々捕らえられ、王妃はすでに処刑されたことが、推察された。


殿下が偽者かどうか、ライル王子処刑が正しい事なのか、
事の真偽を巡り、小競り合いをし始める民衆を避け、影に潜むクルーの元へ辿り着いた。

「いや〜参ったな。お嬢ちゃん、怪我ねェか?
 ウソップ、助かったぜ。ありがとよっ!ナミさん、すみません!!!」
こいつ、なかなかやるなァと、ウソップに、にやりと笑いかけ、鬼顔のナミに謝り続けるサンジ。

「まったく無茶すんなよ、オレが行かなきゃ、が斬りこんでいくとこだぜ」
サンジの騎士道精神に呆れながらも感服し、長い鼻をくいっと上げ、得意そうに言う。

その横で心から感心したチョッパーが眼をキラキラさせ、
「スゲーっぞ!!コノヤロー」
を、連発していた。

「でも、変よ。バルドーの名を出して、連れて来るように指示されて、なんて言ってるのに、
 あいつ、変だと思わなかったわよ」
ナミが、冷静に状況を分析しだした。

「冷静なナミさんも、素敵だぁ〜」
自分のとった行動の照れ隠しからか、ハートの煙をとばすサンジ。

様!!」
唖然とする少女を、少女の目線まで腰を落とし抱きとめる

「良かった。無茶はいけませんよ、お嬢さん。私のことは秘密にしてくださいね」
少女を安心させる微笑を浮かべ、もうお行きなさいと少女の背を押した。

「サンジ……」
サンジが少女を助けに駆け出して行った時、の心に刻まれた痛みが、体を無意識の内に動かす。
サンジに伸ばした指先が、サンジの手に引き上げられ、抱きしめられた。

「心配させて、ごめんな」
小さく、耳元で囁かれ、心の痛みが少しだけおさまるが、胸の動悸は激しくなっていく。

安堵の表情を浮かべるの目に、ばらばらと風に舞う紙がとまった。
の顔から血の気が引き、サンジの腕にかけた指が、ぎりぎりとサンジの腕にくい込み、指の跡をつける。

    
    公開処刑  

      罪人:トゥール・ダビア・ライル
      
      罪状:国家反逆罪

      本日 午後3時、王宮前庭にて、公開処刑と処す。
        

          バーリー・キア・皇太子殿下の名の下に
          海軍大将ギアス承認


「ばかな……」

の只ならぬ様子に、クルー達に緊張が走り、矢継ぎ早に口々に問い掛ける。

「なんだって!処刑って、早すぎねェか!!」

!!どっちに行けばいいんだ!!!」

「時間ねェぞっ!コノヤロー」

「とっとと、行くぞ!オラッ!」

「兎に角、全員!走るわよ!!」

「王宮の前庭だ」

ぼそりと力なく呟くの手を引き、サンジが駆け出した。

、やり遂げるんだろ!」

サンジと繋いだ手の確かさに、我に返り、こっちだと、クルー達を先導する



こんもりと茂った木々の間に、赤茶けたレンガにつたの絡まるバルドーの館が見え隠れする。
やっと、辿り着いた。どうやら、館は無事のようだった。

裏木戸の様子を伺うクルー達。
パタパタと、こちらに走ってくる足音に、いち早く、ゾロが気付いた。

「まずい!隠れろ!!」

「おい!チョッパー逆だぞ!!」

「うわあぁ〜!」

木陰からこそっりと盗み見ていると、どうやら館のメイドらしかった。

「マリア!!」
メイドの顔が見えた瞬間、が飛び出した。

「まぁ!!?殿下!!!!ご無事だったのですね!!」
アップル・ストゥリューデルを作ってくれていたメイドだった。

の様子に、クルー達は、木陰からばらばらと姿を現した。

「貴方達は???」

「なんて、素敵なおねェさまなんだァ〜。俺は恋の狩人サンジです」
眼をハートにしてラブコックになったサンジに、引き気味のマリア。
サンジの頭上に、ナミの拳骨が落とされた。

「アホか!!」
「どうしようもねェな、アホコック」
「あらあら、そんなことしてる場合かしら」
クルー達のぼやきを背に受けながら、

「マリア、よく聞いてくれ。今、王宮に帰ってきているのは、私の偽物だ!
 私が、本物のバーリー・キア・だ」
サンジの様子に、心中穏やかでなくなるのに気が付いたが、一刻を争う事態に、
無理矢理心の底に押し込め、はマリアにグラムオブハートを示した。

殿下、そんな物を、お示しにならなくても、マリアには分かります。
 大事な様ですもの。バルドー様もお帰りになったのですが、少し様子が変ですし…」
マリアは、涙を浮かべながら、話し続ける。

「やっぱりな、偽者バルドーまで登場かよ」
クソヤロウがと言いたげな表情で、タバコを噛むサンジ。
先程の広場での、ウソップのうそに疑問を抱かなかった偽者の態度の謎が解けた。

「はい、偽者様と連れ立って、王宮に攻め込んでこられました。
 その後、海軍大将ギアス様が、みえて、王宮裁判の結果……
 殿下暗殺未遂、国家反逆罪とかの、こじつけた理由で
 ライル王子が今日処刑されようとしています」

様、ライル王子をお助け下さい。あの方は、王妃様に似ず、ご立派なお方です」

「あぁ、分かっている。私は、そのために、帰って来たのだから」
の脳裏を、ライルの面影が、よぎる。

     王宮の王の間のある棟の中庭で、楽しく遊んでいるラーズグリフ王一家。
     私が持ち得なかったものを、全て手に持つ、2才年上の利発な青年。
     王家の血筋ではないが、王家特有の金色の髪、翡翠色の瞳、祖父ラーズ王ゆずりの風貌。
     人格も非の付け所が無く、家臣国民に愛される若き獅子。

     どれ程、羨んだことだろう。
     
     ライルこそが、この王冠を抱くライオンの紋章に相応しい。
     グラムオブハートを、ライルの手に……。

は胸のポケットに入れた皇太子の証と、グラムオブハートを握り締め、決意を瞳に宿し
マリアに館への侵入の手引きを頼んだ。 




一方その頃、王宮の牢獄で、ライルは、との事を考えていた。

     私が、父王様と母上と、楽しく遊んでいる姿を、こっそりと見ていた
     2才年下のイトコ殿。

     王宮の誰にも似ない赤い髪。王女様そっくりのお顔立ち。
     薄紫の瞳に、常に憂いをのせて、皇太后様の横に、ひっそりと並んでおいでだった。

     母上、皇太后、お互いの重臣達に阻まれて、言葉を交わした回数も、片手で足りる。
     もっと、語り合えていたならば、違う間柄だったならば、仲良くなれたであろうに
     お互いの立場を思うあまりに近づくことが、出来なかった。

     バルドー殿の館に、父王様の用事で行った時に見た、殿下。
     藤の花の世話をしておいでだった。

     赤い髪をほどき、藤の花に埋もれる細い体。

     その姿に見惚れて、我を忘れて胸をときめかしたあの日。

      殿下が姫ならばと、何度想像し、ほてった身体を慰めたのだろう。

     姫であったならば、王宮内での対立も無く、
     私と結婚すれば、丸く治まるのに…と、勝手な事を想像した。

     皇太后亡き後、私が命じた事では無いとはいえ、私を皇太子にするがために
     母上の命令で、動いた重臣達のために、国を逃げ出され、兵を引き連れ
     攻め込んでこられた、殿下……。

     数ヶ月の間に、哀愁を帯びた顔立ち、常に控えめな礼儀の良さは皆無となり、
     見惚れた日々の殿下では、無くなっていて……

     そこまで私の存在が、貴方を苦しめてしまったのか…

繋がれた手枷の冷たさに、これから処刑される我が身を省みて、深く頭を垂れ、

「それで、殿下が癒されるのなら、致し方のないことか
 私が死して、私の罪が償われるものならば、易いものだ」

深く過去を後悔し、なおに届かぬ思いを寄せていた。




  

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