もうすぐ世間は、2月14日、バレンタインなる日を迎える。

サンジは、クルー全員に、チョコレート菓子を配るらしい。
バレンタイン・デーは、サンジ的には、そういうものらしいから。

今、私は、悩んでいる。
サンジの作るより美味しいチョコ菓子なんて、想像できる?
無理です。はい。絶対無理です。
愛の深さは、負けないけど、美味しさとか?別の意味で負けるのは、私のプライドが許さない。
悩みに悩んで出した結論は、多少掟破り?破天荒かな……。




Spicy girl  No.4 <チョコレート騒動、その1>




ブツブツと呟きながら、バレンタインのプランを、は練っていた。
の育った国のバレンタイン・デーは、男の人から女の人に贈り物をする日だったが、どうもGM号では違うらしい。
GM号のバレンタインデーは、好きな人に愛のこもったチョコレートを贈る日。
女の子が男の子に愛の告白をする日とも聞いた。

は、聞いた瞬間、眼が点になった。まじまじとナミの顔を見つめるに、ナミが笑いながら教えてくれた事は、
さらに、に衝撃を与えた。

『サンジくんは、毎回手作りのチョコ、みんなに配ってるわよ。お国がらって言ってたけど』

追い討ちをかけるナミの発言には撃沈した。もんもんする頭をかかえ、は二晩考えた。
サンジの上をいくチョコレート菓子とは、いったい何なのか、のひねり出したプランは、はた迷惑なものだった。


「っと、こんなもんかなー。あとは、どうウソップの協力を仰ぐかが、問題よね」

きらっとの瞳が、甲板で新たなる武器の開発に精を出すウソップに向けられた。

「うおぉお!??」

ぞくぞくっと、背筋に悪寒が走ったウソップは、恐る恐る後ろを振り返った。
そこには、無邪気な顔で、何か頼み事があるときに見せる瞳で、ナミとは違う魔女の微笑みを浮かべるがいた。

――ああっ!またか!また俺をサンジに蹴り殺される運命に誘うつもりか!!負けるものか!

冷や汗をたらしながら、ウソップは慌てて自分の手元を見つめた。

「ねぇウソップ。物の型を取るのに一番いい方法って何?」

「んぁ?ああ、何の型を取るかにもよるなーって、俺は協力しねェーぞ!大体、につきあってたら、身がもたねェ!」

「えっ?まだ何も言ってないけど?」

「いや!みなまで言うな!頼み事があんなら、サンジに頼め!!!俺を巻き込むな!」

の視線が、ラウンジのドアに向けられた。視線の先にサンジがいることを、瞬時に悟ったウソップは、大慌てで、
の頼みを回避しようと、無駄な抵抗を試みたが、遅かったようだ。の瞳からみるみるうちに涙が零れてくる。

「くっすん、酷い。ウソップのイジワル」

――地雷踏んだ!

と、思った瞬間、後頭部にサンジの蹴りが炸裂した。

「クソッ長っぱな!!!てっめェーちゃん泣かすなんざ、いい度胸だな。っで、何枚におろされてェ〜んだ」
ちゃーーん、大丈夫か?何言われたんだ?長っぱなに?」
「ああぁ零れる涙が、俺の心を堕としていくぅ〜〜〜〜なんて潤んだ瞳が可愛い〜〜んだぁああ!」

むぎゅとを抱きしめて、ドスコイパンダエプロンのポケットからハンカチを取り出し、
サンジはメロリン状態に堕ちていった。

「ウソップは悪くないの、私が勝手に頼み事しようとしたのが、いけないの。ごめんね、ウソップ」

は、上目づかいにサンジを見上げ、さも悲しそうに鼻をすすり上げながら、話した。
は役者だ。女郎蜘蛛に絡みとられたように、もう自分の運命がどうなるか、ウソップは悟った。

「あぁ、聞いてやる!てやんでェ〜〜〜俺様に出来ることなら、協力は惜しねェつ〜〜〜んだ」

「ありがと、ウソップ」

途端に、涙を引っ込めにっこりと笑う。この願い事を聞いたあとに更にサンジの怒りを買い、
蹴られる運命になるのが、手に取るように分かり、ウソップは、ひきつった笑い顔しか出来なかった。

「んっで、ちゃんの頼み事ってなんだ?俺じゃダメなわけ?」

一応、恋人同士になってから、の願い事は、どんな無茶でも叶えてきた自信のあるサンジは、面白くない。
ぶっすーとした顔で、咥えたタバコをイライラと上げ下げしている。

「ん〜と、まだ内緒v楽しみにしてて」

は、ちゅっとサンジの頬に軽いキスをして、にっこり笑った。ぱっと花が咲くように、サンジの顔が明るくなった。
でへでへと鼻の穴をおっぴろげて、情けない顔をさらすサンジを、そばで見ているウソップは、
バカップルに辟易し自分の運命を呪った。

――なんで、俺はメリー号に乗っちまったんだ!
  かや、俺は勇敢な海の戦士になるまえに、愛のスペクタル劇場に悶死しちまいそうだ。
  てめェーら、ケツが痒くなっから、いちゃつくなら、あっち行け!俺をほかっておいてくれっ!
  俺の平和な日々を返せ!

「じゃーウソップ、ちゃんの頼み、ちゃんと聞けよ。俺はまだ教えてもらえねェみたいだが、俺のためらしいしなっ」

ウソップに向けられたサンジの面白くなさそうな視線に、ウソップの肩は益々下がっていく。
ぽんと、の頭を軽く叩き、サンジは、諦めたようにラウンジに消えた。

「で、なんなんだ?頼み事ってのはっよ、俺様の許容範囲は自慢じゃねェが、狭ェっぞ。無茶はイヤだからな」

「うん。無茶じゃないよ。あのね」

のお願いはやはりウソップの想像を絶するものだったが、の真剣な言葉にウソップは動かされ
協力することになった。これを後々ウソップは、深く後悔する羽目になるのだが……。








「所詮この世は男と女〜〜だから最強!最強!」

「がーーーっはっはっは、もうサンちゃんたら〜vあちしぃ〜にホレまくりだぬわぁ〜〜んてv
 あちし、やっぱり罪な女ねぃvはっ!あちしは男?女?あやふや?あちしはナイスなオカマよ〜ん
 惚れまくりよ〜か、掘られまくりのほ〜うが、あちし嬉しいわねぃ。はっ!あちしったら恥ずかしいわねぃ
 何調子ぶっこいてんおよぅ!じょーだんじゃナーイわよぅ」

奇妙な掛け声を上げながら奇妙な踊りで、道行く人々を現実の世界から次元飛行も旅へと送り込む
破壊力のある白鳥たちの乱舞……。
揃いも揃ったり、屈強な男?女たちの繰り広げる世界は、なんともいえない奇妙な空間で
それでいて明るいお笑いの世界だった。

「さて、やろうども、あちしは此処でサンちゃんとランデブーよ。あーんたた〜〜ち、しっかりレッスン励むのよう!」

とある島、とあるいかがわしい酒場兼連れ込み宿の前で、ボンちゃんは仲間のクルーと別れた。

しかし、このオカマどうやって、海軍から逃げ切ったのか?このあたり深く追求したいが、すると長くなるので、
しないほうがいいだろう。と言うか、ボンちゃんとGM号がグランドラインのとある島で、待ち合わせをする時点で、
おかしいぞ。まぁいい、それはコッチに置いといて……。

ボンちゃんの頭の中は、これから起こるはずの愛のダンシングドールv白鳥ちゃ〜んもびっくり
どっちが掘るか掘られるか?組み敷いたもん勝ち?しかないようだ。しかし、サンジはどういうつもりなのだろうか?

――あちしはオカマだ〜から、どっちでもイケルけ〜ど、サンちゃん希望の美女になんなきゃダメなのねぃ。
  美女って基準失礼こいちゃうわよねぃ?あちし絶世の美女だ〜と思うのにっさ。ぷんぷん。
  あっ!サンちゃんたら、そ〜〜いうことねぃ。もう、恥ずかしがりやさんね〜〜ぃv
  あちしの顔は好みだが、おっぱいがないのが、いやんvってことなのねぃvvv
  がーーーーっはっはっは。ちょろっと変身。おっぱいボーン!!!

ボンちゃんは、変なオカマにびびる店主に、
『サンちゃんから予約が入っているはずよぅvvさっさと案内しろや?!』
と、時に品悪くそれでいて嬉しさのにじみ出るオカマ口調で、迫った。
かなりの迫力、いや、破壊力だ。予約は何故か入っていたから良かったものの、無かったらどうなったことか?
想像するのも恐ろしい。

酒場の片隅で、二人の男女は不味い酒を舐めながら、ボンちゃんの様子を伺っていた。
ボンちゃんの膨らんだ胸元に、悪寒を覚える男と、期待に胸高まる女。
二人の表情は、この世の終わりをみた男と、見果てぬ夢に希望を抱く女だった。
二人の対照的な顔つきに、酒場にたむろする人々が、いぶかしげに、ちらちらと視線を這わせはじめた。


部屋がちゃんと予約してある事実に、うっきうっき気分で、ボンちゃんは、また妄想に耽り始めた。
ボンちゃんの目に飛び込む部屋の全てが、下半身に直結したようだ。

――きゃ〜、なんつ〜〜〜ナイスな仕掛けの部屋な〜〜のかちら?
  あちし、サンちゃんの攻めに耐え切れるかちらねぃ?
  あちしが攻めるつ〜のも、いいわねんvサンちゃんは、どっちかつ〜〜と、受けよねぃ?

天井から釣り下がった滑車と縄。サイドボードに用意された攻め具の数々。

――ぶっはっ!!!あちしとしたことが、鼻血噴いちゃいそうだわねん。
  あ〜いかんいかん!!!

ボンちゃんは、おもむろに椅子に座り天井を見上げながら、後頭部を叩いた。
余りの興奮が体中を駆け巡り、マジで鼻血が出そうになったのだ。
そして、ふと椅子の異様な形状に気がついた。

――ん?ぎゃ?コレって

ゆったり座れる背もたれ肘掛のあるなんの変哲のない椅子なのだが、何故か、肘掛の部分にベルトが付いていて、
脚にもベルト付き、肘掛が椅子と交わるあたりにも、ベルトが取り付けられていた。

――拘束椅子!!??んぎゃ〜〜〜あちし期待しちゃうわよう!!!
  こっれってば、M字開脚でじばっちまえるじゃナーーーイのよう!
  ぎゃ〜〜サンちゃんたら、そういう趣味だったのねぃ!あちし、がんばるわよぅ!!!
  サンちゃんふんじばって、舐めつくしちゃうわよう!!!

オイオイ、オカマ?ボンちゃん、しっかり明後日の方向に思考が、ぶっとんでいってしまったようだ。
つい先日の、チン勃て競争の悲惨な結果は、すっかり忘れているようだ。
大体、何かオカシイと思わんのか?このオカマ?




“コンコンコン”

妄想に耽るボンちゃんを現実に引き戻す音がした。
ドアの反対側では、旨い事に言いくるめられたウソップが、ノックをしていた。

「ぎゃ〜〜〜サンちゃーーーん!!!待ってたわよ〜〜〜ん!!!」

がばっとドアを開けて『愛しいプリンスちゃんの胸にダイビング!』っと思ったら、そこにはウソップの姿しかなかった。
ウソップは、右手をあげてちょっと内股気味に脚をがくがくさせながら、鼻水たらしてご挨拶してきた。

「うっすっ!」

「なんで!鼻ちゃんなのよう!!!じょ〜〜〜だんじゃナーイわよぅ!!!
 あちしはサンちゃんとランデブーなのよぅ!あんた死になサーイ」

「待てぇええ!早まるなぁああああああ!!!俺は、その、あっそっだ!サンジに頼まれたつ〜〜んだ!!!」

メラメラと燃えるオカマの乙女心という名の炎が、ボンちゃんを包みこみ、ウソップに白鳥アラベスクを食らわそうとしたが
危険を察知したウソップの叫びとでまかせの嘘『サンジに頼まれた』が、ボンちゃんの怒りを瞬時におさめた。

「あら〜ん。鼻ちゃん何?何?何、頼まれたのかちらんv」

「おっおぅ!」

――ボンちゃん、悪ぃ。

ウソップの脳裏に、先日のとの会話が蘇ってきた。




「で、なんなんだ?頼み事ってのはっよ、俺様の許容範囲は自慢じゃねェが、狭ェっぞ。無茶はイヤだからな」

「うん。無茶じゃないよ。あのね、おっぱいの型を取って欲しいだけだもん」

「は?」

ウソップのあごが、がくんと外れた。ウソップの様子など、我感知せずなは、聞こえなかったのかと思い、
繰りかえした。

「だから、おっぱいの形をかたどりしたいのよ。材料を揃えて欲しいの」

ウソップは、眩暈がした。思わずしゃがみこみ、己の不幸な巡りあわせを一瞬呪った。

――よりによってこの女は、なんつ〜〜試練を俺様に与えるのか。んな頼みが聞けるか!?
  サンジに殺されるのは確実じゃねェーーか!!!断っても殺される、聞いても殺される。

呆れ果てモノもいいたくはないが、危険は回避しなくてはならない。
ウソップは、凄い剣幕でに迫った。

「はぁー……。出来るか!ボケッ!!!!!このすっとこどっこい!!!」

「なんで?ウソップに直接やってもらう気はないよ?なに?私のおっぱい触りたかったの?」

「ほら、ボンちゃんのさ変身能力で、のおっぱいの型とってくれればいいのよ」

はきょとんとして、さも簡単そうに願い事をすらすら話す。
まるでウソップがその結果どうなるかは、考えてないようだ。
ウソップは、脱力感にかられた。相手をしたくないくらい疲れたが、どっちにしろサンジに殺されるならと、
の願い事を、よく検討しはじめた。

――ボンちゃん、確かにボンちゃんの能力を持ってすりゃ〜、部分的にのおっぱいに変身することは、可能だな。
  しかし、どうやって連絡つけるつもりだ、この女?

ウソップの脳裏をいや〜な予感が通りすぎた。

「しかし、そう都合よくボンちゃんくるのか?」

「うん!コレ見て、カモメ特急郵便で、昨日届いたの」

が取り出した紙には、こう記されていた。



『Dear. サンちゃん。

 ハァ〜イ、あちしのハニ〜〜プリンスちゃーん。元気かすらねぃ?
 あちしは、元気v白鳥ちゃんもびっくらこくぐらいビンビンよぅ。
 
 あら、あちしったらノッケから恥ずかしいわねぃvvv
 もうサンちゃんたら、そ〜〜んなにあちしが好きだなんて、知らなかったわねぃ。

 あちし、嬉し〜たらナーイわよぅ!
 『回って回って、恋の渦に、あちしと堕ちてイキた〜い』だな〜〜んて、
 がーーーっはっはっはは!あちしも罪なオカマねぃvvv

 あちし、サンちゃんへの気持ち、しっかっと受け止めたわよ〜〜ん!どーーーーんと、コイやぁあああ!

 ってか、サンちゃんたら、ちゃんの身体で一番好きなのはおっぱいなのねぃv
 あちし、絶世の美女で、今度は登場するわねぃv了解よん
 愛の営みには刺激がなくちゃ〜ねぃ。ぎゃああああ!楽しみよぅ!

 おっぱいがちゃんなら、問題ナッシング!
 プリンスちゃんのためな〜ら、えーーんやこりゃv
 恋するオカマの意地よぅv

 待っててねぃ。愛しいサンちゃんv
 恋するオカマの純情vこんどこそ、受け取ってもらうわよ〜ん。
 ってか、あちしの白鳥ちゃんでグイグイのほうがいいかすら?
 
 がーーーっはっはっははは!二人の愛は不滅だわねぃv

                              From . 貴方のボン・クレー』




またもや、眩暈がウソップを襲った。今度は、魂が半分抜けかかったようだ。
しかし、都合が良すぎる。ウソップは、本当に好条件が揃っていることに、ふっと、気がついた。

「ヲイ!、お前まさか?!ボンちゃんに手紙なんて書いてねェだろうな?」

「ん?書いたよ。でなきゃ、ボンちゃんがおっぱいだけ私になるわけないでしょ?」

「なんて書いたんだ?」

「んっとね、『ボンちゃんも悪くねェが、のおっぱいに夢中なんだ。出来りゃ絶世の美女でお相手したい』って書いた」

――この女、怖ェ怖すぎる。ナミの入れ知恵か?
  なんで、この船の女は魔女ばかりなんだ!俺様は、かやのそばに居たほうが幸せだったんじゃねェか? 
  俺様は、勇敢な海の戦士になる前に、心労で死んじまうってんだ!

「ったく、んな事できるか!このすっとんきょ〜〜〜!!!ボンちゃんが素直におっぱいの型取らせっかよ!
 俺様は自慢じゃねェが、ボンちゃんに勝つ自信はねェ!!!もちっと、マシな作戦考えやがれ!!!」

「大丈夫、そのへんは考えてあるから。ウソップは得意の発明して?石膏だと時間かかるでしょ?」

「ああ、速乾性の型とり用の粘土みてェのなら、作ってやってもいいぞ。
しっかし、なんでそこまでやらなきゃなんね〜〜んだ?!」

「ん?プライドの問題」

きゅっと口元を引き締めて、ラウンジを見るの真剣な顔に、ウソップは心を動かされた。

の無茶なお願いは今に始まったことではないが、なりのプライドが今回は懸かっているらしい。
プライドという言葉との真剣な瞳に、ウソップはうなずいた。

「おっし!粘土は任しとけ!すっげ〜の作ってやる!俺様に不可能な発明はねェ!!!」

胸をどーんと叩いたが、ウソップは一抹の不安を隠しきれては……いなかった。

という、ことがあったわけだが、さてまた、場面は、いかがわしい酒場兼連れ込み宿の一室へと戻る。


 

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