The Wind of Andalucia 〜 inherit love 〜 18. 遥かなる旅路 静けさを壊す、遠くから近づいてくるクルーの騒がしさが、二人の唇を引き離す。 二人の現状などお構いなしの陽気なクルーに、サンジのこめかみに青筋が浮かんだ。 「なんだ?サンジ、泣かしてんのか?」 「?どっか痛いのか?病気か??」 チョッパーの純真な瞳が心配そうに覗き込む。 「チョッパー、やめろ。これはお前でも治せないやつでな〜サンジのふっごっ!」 言いかけた言葉をサンジの蹴りで阻止され、床に沈むウソップ。 「ぎゃ〜〜〜〜プリンスちゃんv酷い男ねぃ。、こっちいらっしゃいよう。あんな酷い男に触っちゃダメねぃ」 の肩をサンジから奪い取るようなそぶりをするが、 「てめェーーーぶっとばすぞ!!!」 あっさりと、サンジに阻止された。 「あら〜〜〜ん。あちしとあ〜〜〜〜んた、どっちがいい男かしらんねぃ。はっ?あちしは男?女? がーーーはっはっはっvあちしったら、あちしはオカマよ〜〜ん。ジョーだんじゃ〜な〜〜〜〜いわよう。 回るわ、回るわねぃvあちしは回ってなきゃダメねぃ。がーーーはっはっはっ!!!」 陽気な盆ちゃんにつられて、踊りだす者数名。呆れ果てる者数名。 サンジの中で、邪魔された思いと、陽気なクルーに救われた思い、どちらが大きいのか。 「サンジくん、出発するわよ!」 「えっ!?ナミさん、もうですか??」 「ええ、ギアス大将やっつけちゃったから、どうも本部からもっと凄いのが、きそうなのよ」 声を落とし、サンジだけに聞こえるようにナミは続けた。 「お別れ…。早くしなさいネ」 「さぁーーみんな、出発の準備、急ぐわよ!ウソップとチョッパーゾロで、GM号を運んできてねvよろしく」 「をぃ!!」 「てめェは何すんだよ」 「あっ、盆ちゃん。あなたも乗せて欲しいなら、とっとと、船運んできてね」 「ジョーだんじゃ〜〜ナーーーイわよう。問題ナッシングv ちゃ〜〜んと、昨日の内に手配済みよう。オカマを舐めるんじゃーないわよう。 ここから、船を運んである第2港「パラディン」まで、そうねぃ。ん〜〜〜と、馬車で30分ってとこねぃ」 「うぉ〜〜〜盆ちゃん。助かったぜ。やっぱり心の友だよな」 盆ちゃんに抱きつくルフィ。 「けっ、オカマにしては手際がいいじゃねぇか」 ざわざわと、騒がしく遠ざかるクルーの声。GM号を運ばせた盆ちゃんに憎しみに近いものを持つもの数名。 このオカマ、人の恋路を邪魔する気なのか?昨夜の盆ちゃんは、なんだったのか? サンジは、クソオカマやろうと、心で罵りながら、を振り返る。 「ちゃん。バルドーの髪と剣を、バルドーの墓を作ろう」 「はい」 ライラに二人で乗って、王宮へと走らせる。横座りで手綱をサンジに託し、遠乗りを楽しむ。ほんの少しだけの時間。 サンジへの自分の気持ちが愛だと理解したは、この幸せな気持ちが、永久に続いて欲しいと願い、 甘えてサンジの胸元に頭をうずめ背に回した手に力をこめた。 王宮の祭司に頼み、形ばかりの鎮魂を済ませ、急ぎ命じた作らせておいた墓標を携えて、歴代の王家の血筋が眠る墓地へと 足を運ぶ。 にとってはバルドーは父も同然の人。祭司は、王家の墓に、バルドーの墓を作ることには異論は唱えなかった。 あたかも当然のように、母の陵墓の横に、用意されていた空間。 王宮の誰もが認めていた血筋ではないバルドーと自分との関係に、は改めて気付かされた。 母の手紙と形見の指輪を抜き取り、金の箱に遺髪を収める。震える手、溢れる想い。風がやさしく背中をなでる。 母の横に用意された石造りの空間に、ゆっくりと入れた。あの日、赤い髪をバルドーの身体にたむけた日。 あの日からの悲しみが、心から抜け落ちていく。地中に埋もれていく石棺に今までの涙を封印する気持ちで手を合わせた。 バルドー。私のお父様。ええ、貴方を私のお父様と呼んでもいいよね。 ありがとう。なぜ、貴方が私に教えてくれなかったのか、私なりに、理解したよ。 私を、護るためだったんだね。フレイヤ皇太后から私を、貴方なりのやり方で、護ってくれたんだね。 サンジは、バルドーの真新しい石造りの墓標頭頂部に走る切れ込みに、ロングソードを突き立てた。 在りし日のバルドーが奮った剣が、合わせたかのように、ぴたりと収まった。安住の地を見つけたように……。 俺が護ってさしあげると、約束した。 俺の役目は、ここまでか… なぁ、おっさんよ、 いつまでも、護っていきてェ〜〜つーーのは、俺の我がままかよ。 肩からおろしたロングソードの重みが、感触が、抜け落ちる。 約束を果たすことの出来た達成感も虚しく、守護役を解放されたこと虚脱感のみが、サンジを包む。 王宮から「パラディン」までの道のり。 触れる肩先、繋がれた手の温もり、言葉に出せない想いが、二人の間に流れる。 私を連れって行って 俺と行こう 重苦しい空気が、馬車内に流れる。 「おー!!やっぱ、早いよなぁ〜。馬車つ〜のもいいな。いっしっしっしっ。なんだ?ナミ、顔が怖ェぞ? 腹でも、痛ェのか?」 「黙ってなさい!」 「をぃ、なんとかならねぇ〜のか?」 「なんかオレ悲しいんだ。どうしてなんだ?ウソップ」 「浚っちまえばいいんだ」 「バカ!一国のお姫様よ。それに昨日ライル殿下からプロポーズまでされてる子よ」 「なんだ、てめェも盗み聞きかよ」 「あら〜〜〜ん。あんたたちも聞いぃ〜〜〜たのねぃ。あちしのお説教v役に立たなかったのねぃ」 ”ゴン!””ゴン!” 「うるっさい!!」 小さな声で、ひそひそと話すクルー。 やがて30分という短いくせに、昨日歩いた数時間よりも、長く感じる旅が終わった。 桟橋に降り立つクルー。後から駆けつけたライル一行。 ライルの口から語られるお礼と今後の国の行く末。と二人で収める国のあり方を嬉しそうに話す。 「、元気でね」 「王女、お幸せに」 「また逢おうぜ、友よ。あちし、ちゃんのこと、忘れないわよ〜〜ん」 「、元気でな」 「!!オレは淋しいっぞ!!」 「達者でな」 「俺たちはいつでも仲間だ!」 苦虫をつぶした顔のサンジ。すっと、の前にひざまづき、手にそっとくちづけを残し、きびすを返した。 タバコに火をつけながら、うなだれた頭、心持ち猫背気味に、片手をポケットにいれ、タバコをはさんだ方の手を 軽く後ろ手に振り、タラップをあがる。 GM号が桟橋を離れる。決して、を振り返ろうとしないサンジ。 いいのかよというクルーの視線が、サンジの背に刺さる。 うなだれたサンジの唇から、紫煙がアンダルシアの空にまう。 の本当の幸せ。 それは自分で掴むもんだ。 国っつ〜歯車に組み合わせられる運命… 運命…、いや、そうじゃねェ。 俺は、何を勘違いしている。 逆らってみたのかよ、抗ってみたのかよ。 そう言ったのは俺じゃねェのか。 じゃあ、今の俺はなんだ。 けつまくって、とんずら…上等だ。今の俺じゃねェか。 浚っていきてェ オレと一緒に行こうと、一言、言ってダメなら諦めれるさ。 言いもしねェでよっ… 一国の王女と裏家業の海賊。 そうさ、だけどな、 俺がを幸せにしてェんだ。 俺が護っていきてェんだ。 俺が愛してやりてェんだ。 あんな理論を押し付けるライルにやってたまるかよ! 自分の意思で立ち始めた。 そうさ、俺は連れて行きてェと、言ったのか。 意を決し、くるりと向きを変えたサンジの蒼眼が、に注がれる。 サンジの顔を、アンダルシアの風が撫でる。 サンジ。連れてって、私は貴方と一緒にいたい。 貴方のそばで、いつも貴方だけを感じていたい。 もっと、愛を感じたい。 貴方から貰った以上の愛で、貴方を包みたい。 貴方と分かち合う日々を、もっと過ごしたい。 そう思うのは、我がままなのか。 私の運命は、この国を背負うこと……。 手に握り締めた母の形見の指輪が熱を帯びた。金の華奢な装飾の上にのる赤いルビーが光る。 「愛と勇気と誇りを持って、あなたが自分の意思で歩く事を、望む」母の言葉が、脳裏に蘇る。 ……お母様、ええ、私は自分の意志で歩きます。歩かなくてはならないのですね。 運命…。私はまた他人の思惑のまま、駒として生きるつもりだったのですね。 逆らいもせず、抗いもせず。 私の幸せは、サンジとともに生きること。 私の夢は、父シャンクスに貴女の愛を届けること。 サンジの背を見るのが辛かったの俯きがちだった顔が、前を見据える。 薄紫の瞳と、蒼い瞳が、合わさった。流れてくるお互いの心。 「!!俺と来い!一緒に行こう!俺たちは離れちゃいけねェんだ。 俺のそばで、いつも笑っていてくれ!の涙を癒してやれるのは、俺だけだ! のいないオールブルーなんて、見たくねェーーー! がいねェなんて、たまんねェよーーーーーーーー!!! 愛してるよ。。俺と一緒に、行こう」 「サンジ!!連れてって!私を浚っていって! 貴方のいないこの国で、私は幸せになんてなれない。 貴方の愛だけが欲しい。貴方だけが欲しい。 貴方のそばでなら、どんなことがあったって、生きていける 愛してる。愛してるから、連れて行って」 サンジと、どちらが先に叫んだのか。 やった!と抱き合うクルーと、そうなりましたかと、苦笑するライル。重臣たちのざわめき。マリアの喜びの顔。 の薄紫の瞳から涙が溢れる。ライルの手を振り解き、胸に母の手紙と指輪だけ持ち、桟橋から飛んだ。 差し出されるサンジの手、届くはずのない距離を、アンダルシアの藤色の風がやさしく、の身体を運ぶ。 ふわりとサンジの腕の中におさまる。 「もう離さねェ」 「ええ、離さないで」 サンジはオールブルーを見つけるために。 は父シャンクスに母の愛を届けるために。 GM号の一員として、相応しい夢を手にして、は遥かなる旅路についた。 the end |