涙さえ奪って

BACK NEXT TOP


7、成長


 九つ、十、十一、十二。
 俺の時間は海列車を作ることと、どんどん母親譲りの美貌をほころばせていくに、悪ィ虫がつかねェように見張ることで過ぎていった。
 十ニになったは、幼いながらも品のある雰囲気を持つ美少女になっていた。俺は二十三で、フランキーは十九。

 手を出そうにも、出せねェ幼さの残る。出しちまったら、犯罪だろう。俺はロリコンじゃねェしな。惚れたという自覚はあるが、どうにもよ……ガキすぎていけねェ。
 エリノアさんは十九でを産んだそうだ。19+12=31。三十一の未亡人の色気ってヤツは凄いもんだ。俺もよ、どうせ惚れるならエリノアさんに惚れときゃ、よかったんじゃねェか? と思ったこともあった。
 しかしな、幸か不幸か、俺の惚れた女は十ニのちびだ。ンマー、この頃はエリノアさんのお色気たっぷりな姿を見ては、もああなるのか、と密かに楽しんだもんだ。男ってヤツは仕方ねェな。性衝動は止められねェよ。

 は、暇がありゃ俺の膝に入ってきて、妹のように甘えてくるからよ。
 ンマー、とうさまじゃねェ。どうやら、兄貴に昇格したらしい。兄貴が、妹に手ェ出せるか? せいぜい、お祝いだってキスするぐらいしかねェよ。九つ十の誕生日、十一の誕生日。そんだけじゃねェな。何かにつけてお祝いだって、兄らしい軽いキスを送った。舌なんか入れるわけねェよ。ンマー、出来てたら、苦労しねェよ。

 俺の二十、二十一、二十二の誕生日には、からのキスをもらった。もちろん軽いふれあうだけのキスだ。
「アイシュ〜〜〜〜。おめでと! ちゅっ! 」
 元気いっぱいだな。微笑ましいかぎりで、兄は嬉しいよ。ンマーガキめ!
 このときとばかりに、アイシュと呼ぶしな。俺はアイシュと呼ばれるとどうもいけねェ。いたいけな少女を犯しているような妙な錯覚を覚える。保護すべき立場の俺が、こんな邪な思いを持っていいのか、と落ちつかねェ気分になる。



 俺の二十三の誕生日。
 ンマー、あれには参った。
 いつものように、膝抱っこ。そこまではいい。その先が問題だった。上目遣いで、
「アイス。おめでと。大好き……」
 なんて囁きながら、キスされて頬染められてみろよ。しかも、ちゅうじゃなくてキスだった。その違いはわかるだろう。ンマー、たまらんかったな。
 十ニになるかならないかで、なんだ、あの色気はよ。をむさぼりつくしたい衝動、そのままぶつけちまったら、はどうしただろうな。俺はよく耐えたもんだ。

 の十二の誕生日のキスはな。自制するのに、くたびれた。
 いつもならな、抱っこしてちゅうした後、ぐりぐり頭なでまわしてやるんだがよ。どうしたもんかと考え込んでしまったな。

「アイス? キスしないの? 」
「ンマー、そうだな」
「抱っこは? 」
「……抱っこされてェのか」
「いつもしてるよ? 抱っこして、おめでとうってキスしてくれる……」
 なんで、そこで赤くなるんだよ。ンマー、こっちが照れる。
「アイス〜〜」
 もじもじしながらぴったり張り付いてくるを抱きとめたはいいが、その先が進めねェ。下から見上げ目をぱちぱちさせるをどうしろと? あまりにも可愛らしいおねだりに、心臓が破裂しちまうよ。いや、その前に股間が危ねェよ。

「ンマー、抱っこって年じゃねェだろ? 」
「いやぁ〜アイシュの抱っこがいい」
 ンマー、助かったというのかなんなのか知らねェが、股間の危機は去ったよ。
 アイシュと呼ばれると途端に子ども相手に意識が切り替わるのか知らねェが、
「はいはい」
 と膝抱きして、軽いキスをした。

 ガキなのにガキじゃねェとこ見せつけられて、俺はどうしたもんかと眠れねェ日を過ごしたな。



 しばらくたって、ンマー、まずいことに、フランキーが先にを口説きだした。
 俺が自分の年との年の差を考えて、手をこまねいているうちに、ちゃっかりバカンキーに掻っ攫われた。
 初恋に憧れを抱く少女をたぶらかすとは、許せねェ。フランキーが初恋っていうのも、ムカつく。

「ンマー、そりゃねェだろ!! 」
 と詰め寄ったが、バカンキーに鼻で笑われた。
「早いモン勝ちだ。バカヤロ」
 だとよ。
 ムカつくったらねェよ。ンマー、マジで、あの時、ノミを渡さなけりゃよかったぜ。あの後も、さめに追っかけられたフランキーに手を差し出すんじゃなかったぜ。

 確かに十一の年の差より、七つのほうがましだろうが、フランキーを選んだが信じられねェよ。どういう美的感覚なんだ。俺とフランキー、どっちがカッコいいか、普通に俺だろ。
 ンマー、手を出せりゃ手の内に入れっぱなしにできたはずなのに、世間体を気にした俺の負けってことだ。あの時、がきのプロポーズごっこに付き合わなかった俺が悪ィってことだ。
 しかしだ、素直に負けをみとめる気はねェからな!

「ンマー、まだ12のちびなんだから、無茶させんな! に傷つけたら、俺はお前を許さねェぞ! 」
「なんだよ。俺だって、そんなことしねェよ」
「まだ、しねェだけだろ。一生するな! バカンキー! が二十になるまで待て! 」
「そんなに待てるかよ。バカヤロ」
「ンマー、待てねェんなら斬ってやる! ナタ持ってこい! 今すぐ俺が斬りおとしてやる! 」
 ナタ持って振り回していたら、ココロさんに止められた。
「フランキーだって、そこまでバカじゃないから」
 って、信用できるか!


 一晩考えて、俺は、すっぱりあきらめるつもりになった。がバカンキーが好きだっていうなら仕方ねェじゃねェか。俺はバカンキーは大嫌いだから、あいつが失恋したら、いい気味だ、と高笑いできる。
 だけど、フランキーとの仲を引き裂いたら、は泣いちまうだろうな。
 俺は『が泣く』ことは、徹底的に避けてやる男だから、どうにもできねェだろ。
 ヴァージンロードだろうがなんだろうが、俺はの手をとって渡ってやるよ。大嫌いなフランキーの元に、俺が送り込んでやる……よ。父として、兄として……な。



 フランキーと恋人(ムカつく言葉だ)になっても、あいかわらず、週に一回、は俺のところへくる。エリノアさんの雇った家庭教師はずいぶん前にやめたから、今は、俺が家庭教師役だったからな。

「アイスバーグ、ここわかんない」
「ンマー、これはな……」
 俺がの手元を覗き込むたびに、良い香りがする。
 伏せられたまつげの長さ、透き通るように白い肌。色づいた唇。十二の娘の健康的な色気を、間近に捉える俺の眼。
 ンマー、他のヤツラからみれば、どうってことねェもんだろうが、惚れてる俺にしてみれば、平静を装うのに苦労する。

 ンマー、拷問じゃねェか? 俺は、聖人君子じゃねェよ。抱っこして愛しんできたちびが巣立ったのが、悲しいだとか。このまま、押し倒しちまって、初めてを手折りてェだとか。そんなダークな感情が、顔にもでねェ自制心の強さを俺は褒めたな。
 自分で自分を褒めるなんてことは、情けなくて仕方ねェよ。
 を自分のものにすることを、あきらめられるはずがねェ、と思い知った。

 ンマー、それでも、ガキんちょのに七年のうちに育てた心を、打ち明けることなんかできやしねェ。俺の中で、まだはガキなんだから待てって声がするからよ。俺は、約束どおり十八まで待つつもりだった。いや、の心の成長しだいでもっと早く求めちまうかもしれねェほど、に溺れていた。

 ンマー、バカンキーに、二十になるまで待て、と言ったのは、嫌がらせだ。ファーストキスは、とっくに貰っちまったことを、バカにいうつもりは、ねェぞ。バカンキーを悔しがらせるには、最高かもしれねェが、あいつの股間がヒートアップしちまったら、元も子もねェからよ。


 ンマー、バカンキーなんか、早くふられちまえばいいんだ。

 それにつきたな。


BACK NEXT TOP

-Powered by HTML DWARF-

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル