そんなこんなで、月日が過ぎていった。
は十五になった。俺は二十六。フランキーは二十二。
ンマー、ムカつくことに二人はまだ別れてねェ。散々、フランキーの邪魔をしてやったが、結束は強まるばかりだ。
三年の間に、の幼かった体つきは、劇的に変わっていった。
俺は、正直なところ、眼のやり場に困ることが多くなっていた。ンマー、体つきだけ女っぽくなっただけで、中身は昔と変わらない泣き虫のちびだ。普段の動作が、あらけないからな。うっかりパンツが見えたり、ブラからこぼれそうな胸を見る羽目になったりな。
その度、叱りつけたんだが、「えへっ」と笑うだけで改善されない。
ンマー、わざと見せてるのか? と首を傾げるほど、よく見えたもんだ。俺は男として見られてないってことか、と落ち込んだりもした。
フランキーと喧嘩するたびに駆け込んできて、怒り心頭のをなだめるのは、俺の役目だ。ンマー、役得だな。
は、俺の膝に、色気もなんもなく乗ってくる。俺は、それだけで、顔が緩んで仕方ねェ。
「ねぇ〜聞いてよ。アイスバーグ、フランキーのバカったらね……」
ンマー、そのまま抱きついて甘えてくるんだぞ。マジ、たまらねェ。好きな女を膝に乗せて、性的欲求を我慢するのは、拷問だ。俺はよく耐えたもんだ。
フランキーとの喧嘩の内容は、くだらねェことばかりで、俺はの言い分を、はいはい、と聞くだけだ。
ぷんぷん怒っているをなだめながら、いつも思っていた。
『ンマー、バカンキーなんか、早くふっちまえ! 俺にしとけ』
ってな。
俺との仲は変わらねェな。兄と妹というしかねェ距離感。おねだりのたびに見せる仕草の全てが俺を煽るのにな、はちっとも気がつかねェ。
押し倒したくなる衝動を必死にこらえる俺を見て
「アイス? 頭でも痛い? 熱でもでちゃった? 」
なんて言いながら、俺の額にかかる髪をかきあげ、手の平をあててくるをどうしろと?
「なんでもねェ」
ひょいと顔をそむけ、手を避けた。そのまま、引き寄せてキスをした。
「っ!? 」
「ンマー、フランキーと喧嘩したお祝いだ」
たまらなく愛しい十五のの眼がびっくりしたみてェにまん丸になる。
「……アイシュいじわるぅ〜〜〜〜」
「ンマー、お前もな」
だから、アイシュはやめろ! 萎えるからよ。
「私がフランキーと喧嘩すると嬉しいの? 」
「ンマー、嬉しいといったらどうする? 」
「……」
「悩むな。の好きなようにすればいい」
「アイシュ……も好きだよ? 」
ンマー、好きなのは知ってる。そんな兄として好きじゃなくて、男として見られてェの、俺は!
『も』ってなんだよ! いらねェよ。
脱力する俺を、うるうるした瞳で見るんじゃねェよ。
「ンマー、泣くな」
「泣いてないもん!! 」
両目の端にたまる雫はなんだよ。
「はいはい、泣いてねェ。泣いてねェ」
軽く抱き寄せて、ぽんぽん背中を叩く俺。変わらねェなァ、お前はよ。泣くときは、五つのちびのまんまだ。フランキーとのことで俺が愛想を尽かすんじゃねェかって思っているんだろうな。尽かすわけねェのになァ。
「……アイシュ、好き。大好き」
だからな、アイシュと呼ぶな。
「はいはい、俺も好きだ」
「ほんと?」
「本当だ」
「一番好き? 」
「一番だ」
なんだよ、一番って? 俺にお前以外の誰がいるっていうんだ?
「……おかあさんより?」
「はっ? エリノアさんがなんだって? 」
「……なんでもない! 」
は言いたくないって顔をしてぷいっと顔をそむける。
エリノアさんがなんだっていうんだ? そりゃな、三十四の色気は凄いぞ。しかしな、俺がエリノアさんを見ても、エリノアさんの中にの成長した姿を重ねて見てるだけだからな。エリノアさん自身をどうのこうのなんて思ってねェし。
何が言いてェのか聞き出してェが、ぷいっと顔をそむけたときは、てこでも言わねェ頑固なお嬢ちゃんだからな。
ンマー、気長に待つしかねェ。