刹那ー紅華ー





「ちっ!まいったな」

緑の髪の剣士ロロノア・ゾロ。眼に映るものは、後方の山の緑と、前方に広がる青い海原、白い雲と空の青。
船を寄せた秋島で、剣の手入れをしてもらうために、街に繰り出したはずだったのだが、何故か山の中にいるのだ。
深い森の中に入った時点で向きを変え、後戻りをしたはずなのに、目の前の木立が途切れた先に見えたのは海と空。

がしっがしっと頭を掻き、くるりと向きをかえようとするゾロの視界に、赤い色が入った。

山の緑、海の青、空の青に、そぐわぬ赤い色。何だと眼を凝らすゾロの碧眼が赤い色を捕らえた時、赤い色は空を舞った。

「ちっ!」
迷いも無く続いてゾロの身体は、空を舞う。ゾロの伸ばした指先が、赤い色を掴み、両腕で守るように抱きしめ落ちていく。


”ズバーーーーーーーーーーーーーーーン!!!”

水面に叩きつけられる衝撃。意識が飛びそうになるが、抱いた身体のやわらかさと脱力した感触が、ゾロを呼び起こす。
びりびりと痺れる肩に力のこめ、片腕で水を掻き、水面にかろうじて顔を出した。

さっと自分が救った命に眼をやり、意識のないことに舌打ちをしながら、這い上がれる岸を目指し抜き手で水を掻いた。


覚醒する意識。ぼんやりと眼を覚ます助けた女の瞳が、ゾロを見つけ薄っすらと笑みを浮かべた。

「ううぅん……。貴方は、誰?」

「ロロノア・ゾロ」

「ロロノア・ゾロ……。私は死んだの?」

「残念だがな、生きてるぜ。死にてェなら俺の目の前から、とっとと消えろ」
眼差しを女に向けたまま、くいっと顎を上げ、後方を示す。

「やっだ!凶悪な顔してるから、地獄の使者かと、思ったわ。助けてくれたのね。ありがとう」
ぺこりと頭を下げ、立ち去ろうとする女の腕を引きとめ、

「誰が地獄の使者なんだ!だいたい、てめェ、自分から飛んだだろうが」

「空を飛んでみれるか、試してみたの……って言ったら、信じる?」

「……信じるかもな。あぁ、悪ィが、街まで案内してくれ」
ゾロの有無を言わせない口調、鋭い眼差しが、女の首を縦に振らせた。

ゾロの力強い眼差し常人にはない気迫が、女の興味を引き、
崖から諦めたように空に手を伸ばした女の横顔が、ゾロの興味を引いた。

街まで案内してくれなどと、言うつもりもなかったが、何故か女の漆黒の瞳の影がゾロの何かを呼び覚ました。
女の背について歩きながら、危い脆さの中に潜む煌きを見て見たいと、願う己の変化にゾロは戸惑った。

ついて来る男の鋭い眼差し、腰にさした三刀。緑の髪。腹巻。ロロノア・ゾロと名乗った男。
どれもが、名をはせた海賊狩り、そして今は麦わら一味海賊に転じた男の特徴と酷似し、女の内に僅かな光が灯された。

「ゾロ、何故あの場所に居たの」

「いや、たまたま武器屋を探してたらよ、あそこに着いただけだ」

「武器屋ねぇ??あの三刀では足りないの」

「いや、ちょっとな手入れをする道具が買いたくてな」

「刀剣用油とか?」

「あぁ」

「うちにあるわよ。あの、海水につかっちゃったから、すぐに手入れしたほうがいいわね。私がやりましょうか?
 助けてもらったし、よかったら、うちのを無料でお譲りするわ」

無料の言葉にぴくりとゾロの眉があがる。ナミに借金した懐具合と、気にかかる女の瞳の影が、幾分和らいだことに気づき
ゾロは肯いた。

「あぁ、頼めるか」

「えぇ、もちろん。私の家は代々、刀研ぎで生計を立ててきたの。腕は保障するわ」

ほどなくして、女の家に着いた。木のぬくもりのあるやさしい柔らかな家。土間に一歩踏み入れた瞬間、ゾロの背筋が粟立つ。
家の奥の間から流れ出る臭気。ちっと鯉口を切るが、女の手が止めた。

「なんでもないの、病人が寝てるだけよ。どうぞ、こっちへ」

土間から続く作業場に胡坐をかき、女の入れてくれた緑茶を楽しむ。すぅと喉にしみわたる緑茶特有の苦味と、後味に甘みを感じる。

「見せて頂けるかしら、貴方の刀」

三刀を譲り受け、丹念に一本づつ、どんな手入れが必要か調べていく。
真剣な眼差しで、じっくりと検分する女の瞳の強さに、ゾロは女の言葉「腕は保障するわ」に嘘偽りがないことが、分かり、
軽く息を吐いた。

「和道一文字、雪走。このふたつは、すぐにでも手入れできるわ」

「そっか、で、そいつは」
ゾロの顎先で示された妖刀「三代鬼徹」

女は、ちらりと眼を鬼徹に流し、ゾロの顔を正面から見据えた。

「三代鬼徹。これは、時間をかけて研ぎたく思います。妖刀ゆえに、こちらも真剣に望まなければなりません」
真剣みを帯びたきっちりとした言葉遣い。
居住いを正し、きっちりと礼をする女の迫力に、ゾロの背筋も自然に伸び、同じく眼をしっかり見据え

「よろしく頼む」
と、一礼を返した。

「お前、名はなんていうんだ?」

「あぁ、申し遅れました。私は、竜仙箔と申します」

、良い名だ。じゃ、俺は待たせてもらうとするか」

すぅっと、身を横たえ寝る体勢となるゾロに、驚き、くぐもった笑いを漏らし、は、刀の研ぎに集中することにした。



海中に自分を助けるために共に沈んだ刀。
先に問題のない刀に、手を加える。
塩分を残さぬように、水分を含む布と乾いた布で交互に鞘を磨く。納得のいくまで何度も繰りかえした。
すらりと刀身を引き抜く、日頃の手入れの良さから、錆ひとつない刃の煌き。海に沈んだはずなのにぴったりと収まる鞘は
見事に刀を守っていた。研ぐ必要すら感じられない切っ先の鋭さに、の口からため息が漏れる。

古来、度々同じ刀を研ぎに出すことは、恥ずべき行為だった。度々来る客を見下していた父の背中を思い出す。
ゾロの日頃の手入れの良さに感服し、和道一文字、雪走の手入れは簡単に終わった。

「鬼徹」に向き直り、すらりと刀身を引き抜く、自分の中の何かが悲鳴をあげる錯覚に襲われ、胃がきりきりと、軋む。
ぎらつく切っ先、血を吸う刃のイメージが、脳裏にくいこんできた。

先の二棹と同じく、非のうちようのないない手入れが施されており、が研く必要はなかった。

気を鎮め、精神を集中し、目釘を抜いて柄木はばきをはずす。良く揉んだ奉書紙で油を拭い取る。
奉書紙で刀身の面を棟側から挟むようにして、下から切っ先の方へ向けて拭いさる。
何度も、丁寧に下から切っ先へと拭う度に、刀身から染み出てくる血のイメージが、身体に纏わりつくような気がした。

重い息を吐き、打ち粉を手の甲でほぐし、ポンポンと刀身にまんべんなく打つ。血が打ち粉を赤く染め上げる錯覚に震え、
ふと、傍わらで無防備に寝入るゾロの顔を見た。

寝入る前に見せていた精悍な顔つきが、影をひそめ、眉間のしわもなく緩んだ頬、口元を見つめるうちに、何故この男が
「妖刀鬼徹」を扱いながらも、のまれることがないのか、分かったような気がした。
ゾロの寝顔を見つめるうちに、自分の心が研ぎ澄まされ曇りのない青空と山の緑をイメージし、落ち着きを取り戻した。

あらためて、「鬼徹」に向き直り、良く揉んだ奉書紙で打ち粉を拭い取る。先ほどと同じく、下から切っ先へ丁寧に。

精魂をこめ、手入れした刃の煌き。鬼徹の妖しい輝きに、のまれぬように、きっと瞳に力をいれ見つめた。
丁子油をしみこませた奉書紙で刀身に、油を薄くひき、手入れは終わった。




”とんとんとん”と、聴き慣れた物音がする。ゾロの鼻腔をくすぐる味噌汁の香りが、一気にゾロを覚醒へと導いた。

「んぁ?」
     あぁ、俺は随分深く寝入っちまったな。

ゾロの横に、きっちり揃えた三刀に気づき、一棹ごと仕上がりを見ていく。自分が施す手入れとは比べることも出来ない
仕上がりに、舌を巻く思いでいた。



「世話になった。礼を言う」

「あぁ、起きたのね。どうぞ、大したおもてなしは出来ませんが、お風呂と食事をどうぞ。
 あっお風呂は行水のほうがお好みかと、外に用意してありますよ」

「いや、もう十分、礼は貰った。陽の暮れねェうちに……」

ゾロの言葉をさえぎり、
「あっはっは、ゾロ、今から一人で街に行こうとしても、また迷うだけよ。昼間、迷子だったんでしょ」
くすくすと、笑うの顔を、見ていたら、取り立てて急ぎ帰る必要もないことを感じ、勧められるままに湯浴みに向かった。

「剣士たるもの、いかなる時も、剣を離さず」
船上と違い、いつ何が起きるかもしれぬ所で、ゾロが剣を己の手の届かぬ範囲に、ましてや無防備にならざる得ない風呂に入る
わけがないと見抜き、行水用のたらいを用意していたの感覚の鋭さに、感謝した。

台所の小窓から、見るつもりはなくとも眼に入る、乾きべとつく塩を拭い去るゾロの肢体。
上げ下ろされる腕、隆起する筋肉の動き、胸から腹に袈裟切りの傷跡。
命を懸けて生きる男。何がそこまで、ゾロを引き上げているのか、知りたくなった。
向きを変えたゾロの背中の神聖さ、体中に散らばる傷の多さから、当然、背中にもあるだろうと、思っていたが、
どれほど、眼を凝らしても、見つからなかった。

こほんと咳払いをするゾロに、自分が見惚れていたことを気がつかれたことに、恥じらいを覚え、眼をそらした。



黙々ともてなしの料理に舌鼓を打ち、差し出したお酒を嬉々として呑むゾロ。

陽は暮れ、自力で帰ることなど、とうに諦めたゾロに、は、あらためて泊まっていくことを勧めた。

ゾロと、お互いの間にあるのは、襖一枚。
昼間、思いのほか寝入ってしまったゾロの眠りは浅く、崖から諦めたように空に手を伸ばしたの横顔
「空を飛んでみれるか、試してみたの……って言ったら、信じる?」
と、微笑んだ顔が夢の中に繰りかえし出てきた。


瞬時に覚醒する意識。ゾロは、鬼徹の鯉口を迷わず切り、隔たれた襖を蹴破った。
の上に覆いかぶさり、首を絞める影を眼にとめる。

の瞳に映る懇願。迷うことなく、鬼徹を一振りし、影を斬り捨てた。

血飛沫がの身体を染め、影の断末魔の悲鳴が、闇を切り裂く。

一瞬の出来事だった。


「……ありがとうございます」
血飛沫を拭おうともせずに、ゾロを正面から見据え、居住いを正し、深々と頭を床につける

小刻みに震える肩、華奢な首筋が、ゾロの眼を奪う。

「礼なんかいい。で、なんなんだ?こいつは?奥の間に居た病人だろ」
刀身についた血糊を、目についた奉書紙で拭いながら、ゾロは問いかける。

「……私の父です」

はっと刀身から眼をに向け、先を続けろと、眼で促した。

「父は、妖刀の虜になってしまい……。幾度、私がやめてくれと懇願しても、妖刀を手放そうとはしませんでした。
 それどころか、街で辻きりの真似事まで、するようになったのです。妖刀が血を求めると言って……」

「父を虜にした妖刀は、父の命も奪いました。……ええ、私が自らの手で、妖刀”紅華”を、振り落としたのです」

ゾロから心持ち、視線をはずし、続ける。

「父の身体を弔った日。これで、終わったと……思っていたのが、間違いでした。
 紅華を求める父の心は、私が切り捨てただけでは、安らまなかった!

 父の身体は、夜毎、蘇り……紅華を求め、私の元にくる……何度も何度も、私は紅華で斬る。
 斬っても斬っても、父は立ち上がる」

ぽたぽたと涙を流しながら、自分の手の及ばない範疇に行ってしまった父を思い、は話し続ける。

「私の剣の腕が未熟なせいで、父の魂を救うことも出来ないもどかしさ……

 海神に身を捧げ、父を救ってくれるように願いをこめて、崖から飛びました。
 ロロノア・ゾロ。貴方が私の命を拾ってくれた時、願いが叶ったように、思いました」

真摯な瞳でゾロを見据え、深々と礼をし、続ける。

「騙した形で、貴方に父を斬らせることになった事を、お詫び致します」
祈るように手を合わせ、心持ち半身を前に傾け、まるで昔の罪人が処刑されるときの格好で、ゾロの剣を待つ。

「なんの真似だ」

「斬り捨てて下さい」

「……」

ひゅんと唸る鬼徹。の首筋を風が通りすぎた。

はらはらと落ちる髪。首にかけていた翡翠の珠がばらばらと散らばっていく。

「お前のしがらみは、俺が斬った。もう紅華の影に怯える必要はねェ」

ちんと鞘に納まる鬼徹。
絡まるゾロとの視線。

がしっがしっと髪を掻き、ゾロは続ける。

「なぁ、妖刀に魅せられて落ちていったヤツによ、情けはかけるな!かけちまったらよ、自分が負ける。
 お前の手に染み付いた血。俺が貰った。お前の背に張りついた紅華の影もな、今、斬った」

「ゾロ……」

「刀研ぎ師か。なぁ、俺と海へ出ねェか?お前の腕が俺は欲しい。
 お前がやらなけりゃならねェことは、奪った命の重みを心に刻み込み、生きることだ」

静寂の闇夜、は、魅入られた紅華の鞘を、手にしてじっと動かない。
紅華から感じる波動。「私を手にし、お前はどう生きるのだ」あざ笑うかのような声が聞こえてくる。

二人の間を、時が緩やかに流れ、やがて、薄く夜明けの兆しが窓から流れてきた頃、がゾロに視線を投げ、口を開いた。

「私は、妖刀に魅せられてしまう程、弱い。……ひとつ、約束して頂けますか」

「んっぁあ」

「私が、また”紅華”貴方の”鬼徹”に、虜になってしまったら、今度は、迷わず斬り捨てて頂けますか」

「あぁ、約束する。ならねェように、俺が見張ってやる。なったら、斬って(泣いて)やる」



ゾロが約束だと言い切った時に、闇夜を退け、朝日が差し込んできた。

窓辺に立つ、朝日で煌く返り血、漆黒の瞳に灯された強い意志。
の頬についた血を、軽く、ゾロの指が拭いとり、ゾロの力強い腕が、背後から何も言わずに回され抱きしめられた。

     生きていける。
     私は、生きていける。

とめどなく流れる涙が、の心に浴びた血飛沫を洗い流し、背中から伝わる温もりが、希望へと導いていくようだった。






ん〜なんじゃこりゃ???と、悩みつつアップしました。
ゾロというキャラ、どうも私が書くと「思いっきりアホ」「暗い」の、どちらかしかないようです。

真面目にカッコいい「ゾロ」を目指したんですが、あっははは撃沈!
暗いったら、ありゃしねぇ〜〜〜〜〜〜(しょぼーーーん)
ゾロ誕生記念夢のはずなんすがねぇ〜〜〜????
どこが、祝いなんだか?ゾロを書くことの無い私が書いた心意気が祝いつ〜ことで、ゴニョゴニョ…

一応、ゾロ誕生記念DLF(11月いっぱいっす)
「欲しいぜ!コノヤロ〜〜〜」なんて方、居られましたら、
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