「!!! ふせろ!!! 火拳!!! 」
エースの拳がを飲み込もうとして大きく開けられた口に放たれた。轟音と爆音が同時に爆ぜ、身動きできないの体を一瞬なめあげた。
――熱っ!!! これで終わりか……。
炎が体をなめ、髪が体がチリチリと音をたてた。熱風が体を直撃し、肺が焼け付く。意識がとぶ瞬間、声が聞こえた気がした。
「手間かけさせんな。少尉ちゃん」
海に落とされた。冷たさが心地よいと感じる間もなく、水温は一気に上昇した。大きなあぶくをあげなから化物が沈んでいった。あたりにはシュウシュウと水蒸気があがっていた。
「大丈夫か、」
頬を叩かれ、意識を取り戻したときには、全て終わっていた。
仲間のかたきを、再びの目が捉えたとき、は真っ向から突っ込んだ。ひるむ間などなく、火拳の考えた作戦すら忘れて。
かたきは、グロテスクなまでに無数に生える足を持つ海王類、ばかでかいイカかタコのような生き物だった。
激高したの一振りは、を捕まえようとうねる足を切り裂いた。痛みはあったらしく、化物は怒り狂ったかのように船を揺るがし、二人を捕まえようと無数の足を伸ばしてきた。
火拳を放つが、ぬめる体液がはじき、エースの攻撃は本体までとどかない。それでも、火拳との剣は化物の足を数本ダメにするダメージを与え、激高した化物が海上に頭を現した。
「でかいイカだな。眉間あたりが狙い目か」
チッと舌打ちし、化物の眉間めがけて剣をつきたてようと、は折れたマストを足がかりに、空へ飛んだ。
「無茶だ! 」
――火拳の叫びが聞こえたが知ったことじゃない。私はここでみなのもとに行くのだからな!
の渾身の一撃は見事に決まった。狙い澄ました眉間に、柄までのめり込むほど、叩き込めた。
化物は身の毛のよだつ咆哮をあげ、のたうちまわった。の手が柄から滑り落ち、海上に叩きつけられる瞬間、怒り狂う化物の足に捕らわれた。
「ふん、こんなもんか、私の命は。食らうがいい。内側から切り裂いてやる」
化物の口をしっかり見据えた。体に巻きついた化物の足がぎりぎり体をしめつけてくる。かろうじて動く右手で、足首に仕込んであるレイピアを引き出した。
――こんなもんでも役に立つだろう。さぁ喰え、私を飲み込め。
を捕まえた足が高くあがり、化物の口が大きく開いた瞬間、火拳が動いた。
狙い通りの位置、化物の口内に、火拳が放たれた。内側から焼け焦げ体内のガスに引火し化物ははじけ飛んだ。
「無茶な少尉ちゃんだな。ケガねェか? ああ、髪がこげちまったな。っと、やけどは」
「問題ない。どこも痛くはない」
「痛くねェわけねェだろ」
「ああ、確かにな」
あちこち体をまさぐられ、はあらい息を吐いた。どこもかしこも痛いが、這い回る火拳の手が恥ずかしい。
「やけどはねェな」
「クククッ。よく言う。火拳、さすがに熱かったが、すぐ水に落としてくれただろう。そうたいして焼かれたわけじゃない」
「だいたいな、がいけねェんだぜ。作戦もなにもあったもんじゃねェ」
「ああ、すまない。結果オーライだろ? 」
「なぁ、いつもあんな戦い方をするのか? 」
「いや、火拳がなんとかするだろう、と思ってな」
「冗談いっとけ」
「疲れた。ちょっと眠りたい」
「ああ、寝とけ」
エースの肌に頬を寄せ、は瞳を閉じた。
――睫毛まで焦げちまって、……どこまでおれを堕としたら気が済む。
2010/2/16