貴魂島 「うわァ〜、すげェ〜〜〜島中、真っ赤な花ばっかだな!!!」 嵐に翻弄され、偶然見つけた島は、血の色に染まる花に埋め尽くされていた。 島に上陸したくない病のでているウソップを軽く無視し、GM号の修理及び物資補給のために クルー達は島に船を寄せた。 「おう、よう、きなされた貴魂島へ」 島の長老らしき人物が、にこやかに出迎える。 「おっ!!じいちゃん、誰だ???俺、ルフィ。海賊王になる男だ!!」 「アホかー!!!」 「なんだよ、ナミ。ぶつことねェだろ?俺は本当のこと、言っただけだ!」 「あの、私達は……」 ルフィを黙らせて、ナミが逗留の交渉をしかけるのを、長老はさえぎり、 「ほっほっほっ。元気のいいオナゴだのう。まぁ、ゆっくりしていきなさるがよかろう。 この貴魂島ではのう、今、祭りの最中じゃ。祭りの時、辿り着いた者には、もてなしをする慣習があるのじゃよ」 と、海賊だろうが、ここでは何の意味も持たぬと、話す。 「余所者をにこやかに出迎えるヤツにろくなヤツはいねェ」 と、ぼやくゾロを無視して、クルーは長老の好意に甘えることにした。 貴魂島の祭りは、赤い花が咲く3日間通して行われる事、3日間の祭りが終わりの告げる夜明け、花が枯れる事など ルフィー達に話し聞かせながら、長老は村人に客人の来訪を告げた。 貴魂島に海賊が来ることが珍しいのか、祭りだからか、夜中まで熱烈な歓迎を受けるクルー。 いつしか夜は更け、皆疲れきって寝入った。 「シャンシャンシャン」 まだ、空に月の残る明け方、微かな音に、サンジは惹かれるかのように目覚めた。 月明かりに照らされた丘に、ひと際群生する赤い花の中で、一心に舞う少女の姿に、サンジは気づいた。 照らす月の美しさに、魂を奪われるかのような錯覚を覚える。 祈りを捧げるかのように舞う少女の足首につけたアンクレットが「シャンシャンシャン」とリズムを刻む。 サンジが見ていることに、気がついた少女は、おびえたように微笑む。 「あなたは、誰?」 少女のおびえた微笑に我を忘れて見惚れていたサンジは、慌てて 「あぁ、失礼しました。お美しいレディ。俺の名はサンジ。海の一流コックです」 「サンジ」 「あぁ、貴女の名は?」 「私に名はありません。皆は、巫女さまと呼びます」 「巫女さま?」 「ええ…。私はこの島の赤い花を慰める巫女なのです」 「へェ〜、花をねェ……」 辺りに咲く赤い花がざわめく。 「もっと舞をみせろ」 と、巫女を急かす。 巫女はサンジに一礼をして、また舞い始めた。 「シャンシャンシャン」巫女のアンクレットが出す音だけが、二人の間に流れていった。 魅入られたように、ずっと巫女を見守るサンジの熱い視線。 空が白むまでのほんの短い時間のこと。空が白む頃、疲れきった巫女は、がくりを膝をつき地面に崩れ落ちた。 慌てて駆け寄るサンジの眼に、すやすやと寝息を立て無垢な顔で寝入る巫女の顔が入り、 神々しいまでの神聖さに、ふれるのを躊躇った。 どこからともなく現れた男達が、ものも言わず、巫女の身体を御輿に乗せ連れて行く。 「ほっほっほっ」 長老が、サンジの後ろから声をかけた。 「巫女さまの舞に魅入られましたな」 「ん、あぁ…なんなんだ、ありゃ」 「この島はのう、海で命を落とした者が赤い花となり還る帰魂の島。 巫女さまは、それをお慰めする聖なるお方。尋常な精神の持ち主では見れぬお方じゃ。 お主は、心に病を持っておるな」 「病……、んなもんねェよ」 「いや、心に深く懺悔するものを持つはずじゃ。まぁ今日も明日の夜も、巫女さまは舞を舞われる。 それを見納めてから、島を出ていくがよかろう」 長老の不思議な視線が、サンジを見透かすかのように射抜く。 不思議な夜を過ごしたサンジは、祭りの騒がしさをものともせず、寝入っている。 船上とは違い、この島でサンジが料理をする必要もなく、クルー達はサンジを無理に起こそうとしなかった。 ルフィは島の子供と意気投合し、虫取りに夢中になり、ゾロはいつもの如く鍛錬に勤しみ、 ウソップは「俺は船大工じゃない」とぼやきながら、船の修理、そばで手伝うチョッパー。 ロビンとナミは、長老から島の歴史を聞いている。 うつらうつらと、夢を見るサンジ。 暗闇の奥から聞こえる少女の泣き声。 「いやぁーーーーー!」 暗闇に灯りが燈ったかのように、少女の白い裸体が浮く。 数人の男達に代わる代わる辱めを受け、朱色に染まる透き通った白い肌。 怒りを覚えたサンジは、 「クソやろうがぁああ!!」 と、蹴りを繰り出すが、男達の身体をすり抜けてしまった。 犯される少女の悲鳴、巫女によく似た少女の虚ろな眼が、サンジを見る。 サンジの心に訴えかけてくる数人の少女の声。 「あの子を救ってやって、私達のあの子を救ってください」 「うわっ!!!」 びっしょりと、寝汗をかき飛び起きたサンジは、目覚めの悪い夢の内容に、うんざりし紫煙にすがった。 2日目の夜も、長老の好意で歓迎の宴を受ける。 宴の最中も、そわそわと落ち着かないサンジを、長老の不思議な眼が追う。 「シャンシャンシャン」 微かに聞こえたアンクレットの音に、サンジの耳は敏感に反応し、巫女の無垢な顔を思い浮かべ 居ても立ってもいられず、巫女の舞う丘へと、サンジは我を忘れて駆け出した。 昨日と同じ月明かりの中、群生する赤い花に埋もれるように、巫女は舞う。 自らの魂を天に捧げるかの如く。 あぁ、昨日の人が サンジを見つけた巫女の眼が、きらきらと嬉しそうに輝く。 舞いを止めようとはせずに、まるでサンジの心を洗い清めるかのように舞う。 「シャンシャンシャン」 アンクレットの出す音だけが、二人の間をよぎり、空が白む頃、巫女は崩れ落ちた。 昨日の今日で、倒れるタイミングを計ったかのように、サンジの腕が崩れ落ちる寸前の巫女を支え胸に抱く。 疲れきった巫女の神々しい顔に魅入られたサンジ。 サンジの肩をもの言わぬ男達が叩き、巫女を御輿に乗せろと、眼で合図を送ってきた。 手放したくない感情とどうにか折り合いをつけ、サンジは巫女から手を引いた。 巫女の長い髪を梳きながら。 夜中の行動のせいか、3日目の昼中もサンジはうつらうつらと昼寝をしている。 眠りに引きずり込まれるかのように、サンジの目は開けていようと、サンジがいくら頑張っても閉じてしまう。 諦めて意識を手放すと、またあの夢。 巫女によく似た顔の少女が泣き叫び、助けようとするサンジ。 しかし、何度蹴りを繰り出そうが、ひとつも当たらず、陵辱される少女の姿を見ているしかない。 そして最後は決まって、あの声がサンジに訴えかける。 「あの子を救ってやって、私達のあの子を救ってください」 何度目覚めても、また睡魔が襲い、繰り返し繰り返しあの夢を見せつける。 外が闇に包まれ、最後の宴が始まる頃、やっとサンジは睡魔から解放された。 流石にもてなしはもう充分受けたと、遠慮するクルーに、長老は「これは慣習だ」と、クルーの遠慮をものともせず 各種のご馳走と、祭りの最後の晩に呑むという桃色の酒を勧める。 淡い桜の花びらを溶かし込んだような色合いの酒。 長老の折角の心遣いを無下に断ることも出来ず、クルーは酔いしれていった。 更に夜は深まり、桃色の酒を呑めば呑むほど、サンジの中に得も知れぬ感覚が生まれる。 サンジの耳に届いた「シャン」という微かな響き。 ものも言わずに外に飛び出し、巫女の舞う丘を目指すサンジ。何者かに憑依されたかのように。 満月の光の中、巫女が舞う。 「シャンシャンシャン」 アンクレットの音が、サンジを誘う。 魅入られたサンジの手が巫女を捕まえ、くいっと顎を持ち上げ、キスを落とす。 ザワザワと、赤い花がざわめきだした。 「見せろ!見せろ!見せろ!」 巫女の身体をサンジの手が陵辱していく、サンジの意思に反して。 くっそっ!!!俺はなにをしてやがる!!! 巫女のおびえた顔にふっと我に返るサンジ、すぐに意識がとびそうになるが、自らの指を噛みきり痛みで意識を戻す。 ザワザワと、赤い花がざわめく。 「見せろ!見せろ!見せろ!」 「巫女さま、お美しい貴女を、愛してもよろしいでしょうか」 サンジの真摯な蒼眼が、巫女を慈しむように見つめる。 巫女のおびえた表情が、ゆっくりと消え、サンジの愛撫を受け入れていく。 ゆっくりと慈しみ愛を捧げるサンジ。 蕾がほころび、満開の花を咲かせる巫女。 辺りにひろがる太古のリズム。 何度、昇天してもなお求め合う二人を、赤い花が見つめていた。 空が白み始めた頃、気を失っていたサンジの意識が戻り始めた。 俺は、なにをした。 サンジの胸に寄り添い、朝露を纏う素肌の巫女。 「ほっほっほっ。巫女さま、サンジ殿の精、余すところなくお受けになられましたかのう」 長老が音も無く、忍び寄る。 「……」 巫女の眼が薄っすらと開き、サンジを見つけ、はにかむ笑顔を見せた。 「どーいうこった!これは」 蒼眼に怒りを滲ませ、サンジは問う。 「ほっほっほっ。巫女さまの舞は数年に一度の3日間。 その終わりに次代の巫女を宿すべく男の精を受けるのが運命じゃ。 その役に就けたこと、光栄に思うがよかろう。ほぉっほっほっ」 「ざけんな!じゃぁ何か。あの夢…… 今までの巫女が、男達に犯されてたのはマジだってことか!!?? 次代の巫女を産むの運命だと〜〜〜!! てめェーーレディを何だと、思ってやがる!!!」 サンジの身の内に、新たな怒りが巻き起こる。 蒼眼に巫女への慈しみをこめ、そっと巫女の裸体にシャツを掛け、長老に向き直ったサンジ。 長老へ怒りを叩きつけようとした時、サンジの耳元であの夢の声がする。 「名前を。名前を。名前を!!!」 耳元で懇願する大勢の歴代の巫女の声。サンジの理解の及ばない内側が受け止め、巫女に向き直り 「レディ。お名前を、お付けしてもよろしいですか」 「名前?」 「あぁ、レディ。愛しい貴女の名は、」 「やめんか!!」 ふるふると辺りをふるわす長老の叫び声。 ざわざわとざわめく赤い花。 「?」 「あぁ、ちゃん。愛している」 すっと、腰を屈め、に繰り返しキスをして、名を囁く。 「、……。……」 サンジがつけた巫女の名を口ずさむごとに、島がぐらりと揺れる。 赤い花が、ゆらゆらと揺れ、亡者の叫びがこだまする。 「おおおう、曼珠沙華の色が!!」 長老の驚きの声に、辺りを見回すと、赤い曼珠沙華から色が抜け落ちていく。 吸い上げた血の色を地に戻すかのように。 見る間に変わる辺りの光景、亡者の叫びが聞こえなくなり、赤い花は白く透き通る曼珠沙華に変化を遂げた。 歴代の巫女が、長老の耳に静かに諭すように語りかける。 「もう、よいのですよ。帰魂の島はもう帰魂の島ではないのです。 を、解放なさい。 名を抱いた巫女は、もはや巫女ではないのです。 お互いに愛しく思う心。愛しく思う男の精を受け、名を貰ったことで、島の贖罪は済んだのですよ」 海から緩やかな風が吹き、白い曼珠沙華を揺らす。 長老の胸に溶け込む巫女の声、長老の内に広がる解放感。 長老の影は、朝日の差し込む中、ゆっくりと薄らいでいった。 「なっ、何!!」 驚き、までも消えてしまうのではないかと、慌てるサンジに、 はぎゅっとしがみつき震える。 二人の耳にやさしく歴代の巫女が代わる代わる祝福を捧げる。 「お行きなさい、心の命ずるままに」 極上の愛を手にした巫女は、今となり、長年の呪縛から解放された。 「オ〜〜〜〜イ!!!サンジィ〜〜〜〜〜めし〜〜〜〜〜」 「なんなんだ、この島は?あっと言う間に人が消えちまったぞ」 「だいたいアンタがいけないのよ!」 「うおぉぉぉ〜〜〜〜やはり、上陸してはいけない島だったんだぁあああ」 「ホントか!!」 騒がしいクルー達が、サンジの元に集まってきた。 不思議なものを見るように、を見るクルー達。 「あっ、ちゃんつ〜んだ。GM号に乗せてくれねェか?」 「なんだ?サンジ、惚れたのか?しっしっしっ、いいぞ。 赤い花消えて、白い花いっぱいになったな。この島すげェ〜〜ぞ、不思議島だ。 つ〜のか、オレはルフィ!海賊王なる男だ!!」 「……そうね、人のいなくなったこの島に一人残して行くわけには、いかないわね。私はナミ、よろしくね」 「あの私……」 「しっ。何も言わなくていいのよ。さぁ〜〜もうこの島に用は無いわ!!みんな!出港準備!!」 オレンジの髪のナミが優しく微笑み、クルーに出港の命令を出す。 船長と航海士が了解したのなら、他のクルーが何を言えるわけもなく、さして不満もなく、 ごく自然にを、受け入れていった。 GM号が岸を離れた時、風を受けてはらむ帆とともに、白い曼珠沙華がいっせいに揺れた。 貴魂島に縛りつけられていた海の亡者たちが、一人一人お礼を言うように揺らめく。 サンジの傍らに立つの頬を、涙が伝い落ちる。 「行っておいで、さようなら、ありがとう」 緩やかな風の中に、言葉を残して、貴魂島は、波間にみえなくなって行った。 |
「曼珠沙華」 意外と色の種類が多く、赤の毒々しさと、対照的な白の清らかさを 見ているうちに、浮かんだ作品です。 微エロですので、表でどうぞ〜 HP開設にあたり、お祝いの品を頂きました方に、捧げます。 |