The Wind of Andalucia    〜 inherit love 〜

1. 出会い





白亜紀の植物の生い茂る密林、太古の島「リトルガーデン」


一人の少年が、眉を曇らせ、傍らの男を見つめている。
傍らの男は、先程までのうわ言も影を潜め、浅い呼吸を繰り返す。
男の額に浮かんでいた汗も、今はもう、体中の水分が抜け落ちたのか
すでに乾き、うっすらと塩のベールを残すのみだった。

「バルドー……」
少年の絶望に色濃く染まった瞳から、涙が滑り落ちた。

嵐の中、船を操り辿り着いた島は、太古の島。
船は海の藻屑となり、手元に残ったのは、お互いの存在と、お互いの剣と、少年の母の形見の剣。

何があろうとも、護り通すつもりであった少年を置いて、バルドーは、逝こうとしている。

少年の耳に聞こえる音は、お互いの呼吸音、風のざわめき、恐竜の咆哮、火山の噴火音。
少年の頼れるものは、お互いの存在のみであった。



「ギャギャーーーーーーー!!!!!」
"首肉"コリエシューーーーーーート!!!!」
”ずどどどーーーーーーーーーーん”
ずしりと響く、恐竜の倒れた音と、聞き慣れぬ男の声。

少年の瞳に、希望の光が差し、駆け出す。

     早く、早く、あの声のもとへ、薬を…医者を……



「ったく、なんて島なんだ!ここはヨウ!!」
「クソでけ〜〜、これなら、俺様の勝ちだ!!」
木陰から覗き見ると、そこには、咥えタバコで余裕顔の男がいた。

男は、背中にクルー達のものとは違う視線を感じた。

「ん?誰だ!!出てこい!!!」
少年の眼に映る、金髪、場違いな黒スーツ、すらりとした優男のような体躯
ぐるりと巻いた眉、隠された右目、凶悪そうにみえる蒼眼。

少年は、蒼眼の中にひとひらの優しさを見つけ、姿を見せる決意をした。

「私の名は、。仲間を助けて欲しい」
男の眼に映る、背で編込んだ燃え立つ様な赤い髪、薄紫の瞳、ぬけるような白い肌、
濡れた艶を放つ唇。耳に入る、りんと透る声。

「ポッポー!!!綺麗なお嬢さん、この恋の奴隷サンジ。
 あなたのためなら、何でも致します。ご用件は何でしょう」
サンジは、の姿を見て、蒼眼をハートにし、タバコの煙をもハートにし
の前に、駆け寄りひざまずいた。

「はっ!?私は男だ」
男の変貌ぶりに、戸惑った。

「そんな、バカな!!!あぁ〜〜神は何て試練を与えるのかぁ〜〜〜」
サンジは、くねくねと身を揺らし、絶叫した。

「兎に角、仲間が病気なんだ。医者、もしくは薬を持っていないか」
サンジの態度に、じれったい思いを隠せなくなった。

「って、本当に男??信じられねぇな。あなたの様に美しい人が…」
大げさに傷ついた素振りで、話しかけた。

「だから!!!男だ!!!!医者か薬を…」
この変な男が頼りにならないかも知れないと、恐怖が、の心に生まれた。

「っで、何処にいるんだ?その仲間ってのは?案内しろ!」
サンジは、の瞳に、色濃く映る恐怖を見つけ、素早く立ち直り、冷静になった。

「こっちだ!」
は、ほっとして瞳に希望を映し、先を示し駆け出した。



刈り込んだ木々で作った粗末な小屋に、の父親くらいの男が横たわっている。
サンジは、男を見た瞬間に、もう男の命が尽きようとしているのを悟った。

「バルドー!バルドー!しっかりしてバルドー!!」
は、やっとみつけた希望にすがりながら、バルドーを揺すり起こそうとした。

「あっち!!!すげェ熱だな、こりゃ」
サンジは、に悟られぬ様に、平静を装い男の額を触れた。

「えぇ、もう、5日間、熱が下がらないんだ。」
の瞳に、不安が見え隠れした。

「兎に角、船に運ぶぞ」
男の様子を手遅れと感じながらも、不安に慄くのために、
何とかしたい気持ちが、サンジを動かす。

「はい、お願いします」
差し延べられた手にすがる思いが、音となり自然に言葉となった。

「……様」
の腕を、ぎゅっと、掴むバルドー。

「バルドー、しっかりして!今から…」
バルドーの意識が戻った事に、はっとして、救いの手が差し延べられた事を
話そうとした。

様」
の話を遮り、息も絶え絶えに、バルドーはに何かを告げようとする。

「…私は、もう……助からない様です…」

「そんな、いやだ!!バルドー……私を、ずっと護ると誓ったではないか!!!」
恐怖がを支配し、抑えきれない涙が溢れ出した。

様、良くお聞き下さい…くっ……様のお父上の事ですが…詳しくは……ハァ………
 私の屋敷の…くっ……れ、礼拝堂…の……あの中に…ございます。
 …いつの日か……見つけて下さい…ぐっ……」
己の死を悟り、必死で是だけは伝えておかなければと、バルドーは言葉をつむぐ。

「バルドー!いやだ!バルドーが居なければ…私は何処へも、行かんぞ!!
 バルドーバルドー死ぬな!!!!バルドー……」
恐怖、絶望、驚愕、懇願、渦巻く感情が、を揺さぶる。


さ…ま…」
己の命に代えても護り通すつもりであったを置いて逝く己の不甲斐無さ。
この先のの身を案じるバルドーの視界に、金髪の男が入る。
蒼眼に秘められた「強き心の者のみ持つ光」

「騎士殿…」
死に逝く男の瞳が、サンジを真っ直ぐに見据えた。

「俺の名はサンジ、海の一流コックだ」
男の瞳に籠められた意志を汲み取り、真っ直ぐに見返し、名乗った。

「サンジ殿…様を……我が君を…お願…い致…します……」
この「強き心の者のみ持つ光」ならば、を託すことが出来ると悟り、
身を振り絞るようにして、ありったけの想いを籠め懇願した。

「あぁ…安心しろ!これからは、てめェの代わりに、俺が護ってさし上げるよ」
男の言葉に込められた想いを真摯に受け止め、死に逝く男に、心からの言葉をかけた。


「いや!!!バルドー!私をおいて逝くな!!!連れてってくれ!!私も…バルドーーーーーーーーーー」
聞くものの心を揺さぶる絶叫をあげた。

「……
を「強き心の者のみ持つ光」に託した安心感が、バルドーの内に広がる。
唯一愛した女性の姿がバルドーの脳裏に浮かび、すがりつくを渾身の力で抱きしめ
愛しき者の名を呟き、バルドーは、死出の旅路に就いた。

サンジは、泣き叫ぶの背に、かける言葉もなく、じっと見守り続けた。



ざわめく風の音、恐竜の咆哮の中、サンジは黙々と穴を掘っていた。
バルドーのための穴、恐竜共が、すぐに掘り返せぬように…深く。
足許には、数十本の吸殻が転がっていた。

!さっ、バルドーを運ぶぜ!」
「このままにしとけねェーだろ?」
声を掛けたが、返事が無い。不信に思い覗き込むと、涙の雫をまなじりにため、
頬に痕を残し、疲れきって眠っている。
胸に詰まる想いを抱え、の涙を、そっと、指先ですくい、背を向け、
サンジは、バルドーの亡骸に、そっと手を加えた。

「オイ!起きろ!!!!」

「ん…バルドー……」
哀しみにけぶった瞳がサンジを見つけ、泣いた事を恥じる様に、目を擦る。

「さっ…埋めるぞ」
「………」

サンジは、バルドーを抱え歩く。
深い穴の中にバルドーを横たわらせ、少しづつ、土を掛け始めた。

「待って!!コレを一緒に!」
背に手をまわし、赤い髪の先を一房切り取り差し出す。

「あぁ…そうだな」
     こいつ、強ェ…。もう泣き顔は見せねえって事か……
     いい女だ!って???男だ、男、こいつは男!!俺様、何、血迷ってんだ???
サンジの心に驚愕、畏敬、戸惑いが浮かんだ。


バルドーの身体に、早過ぎる死を悼むように、の赤い髪が舞う。

虚しい思いが、の心を支配した。
     バルドー…貴方を失って、どう生きて行けばいい……


二人で、土と共に、心の中で弔いの言葉を投げ掛けた。


  
「さてと、こんなもんだろ!船に戻るぞ!?」

「…あぁ……私は…残る」

「俺と一緒に行くんだヨ!バルドーに約束したかんな!此処に居ても仕方ねえ〜だろ??」

「………」

「仲間に合わせるさ!船戻るぞ!あっ!!言っとくがな!
 ナミさん、ビビちゃんに、手ェー出すな!!!」

この島でたった一人の仲間を亡くし、頼る者の無い、哀しみをぶつける先の無い
の心を想い、サンジは、あえて軽い口調で、誘う。

「はっ???」

「女の子だよ、ナイスバディのクソ美しいお二人と、みかん畑に手ェ出すな!つってんだヨ!!!
 行くぞ!オラ!!!」
照れ隠しなのか、優しさを言葉の悪さで隠し、誘う。

「…変な男だな……サンジは…」
     此処に居ても仕方ないか…そうだな……
     私自身が、この世に居ても…仕方ないのだが…。バルドー……
は、後ろ髪を引かれる思いに囚われ、動けなかった。

「って、行くぞ!!てめェー!バルドーのおっさんの何聞いてやがった!!
 行くトコ、やる事あんだろが!!」
動けないに、サンジの叱咤がとんだ。

「えっ!?」
は、はっと、顔を上げサンジを見つめた。

「バルドーの礼拝堂の…ん?何だか知らなェけどよ…見つけなきゃなんねェんじゃーねェの?」
ちらりと冷めた視線を投げ掛け、ふ〜っと、紫煙を吐き、諭す。

「…父上の……秘密……」

「そっ!男が今わの際に残した言葉だ。重要な事だってェのは、俺にだって分かる。
 最後まで、やり遂げてやれヨ…いやでも……ナッ!!!」
サンジは、にっかと、不意打ちで笑った。

の心に、微かに芽生える信頼。
     バルドーの最後の言葉を真摯に受け止めたこの男サンジ
     泣きじゃくる私を、見守っていたサンジ
     亡骸を、丁寧に埋葬してくれたサンジ
     信じてみよう…この男を。

「…一緒に連れて行って頂けますか?」

「おぅ!俺達の船にようこそだ!さっ!行くぞ」

「はい」
     私には、やる事が出来た。父上の秘密…
     それが分かれば、私の存在理由も分かるのかも知れない。

は、きっと顔を上げ、バルドーの墓に一瞥を与え背を向け、サンジの横に並んだ。

バルドーの剣。
母の剣。
腰に携える自分の剣。
自身の生い立ちを探すために。

 

  

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