あの事件のあと、行方をくらました俺を、エリノアさんが探し出した。あの最悪の日から、三週間経っていた。再会したエリノアさんは、ひどく取り乱していた。
「が行ってしまうわ。を説得して。あなたしかできないことだから、お願い……」
それが、エリノアさんの用件だった。が、俺の説得なんか今さら聞く耳を持つわけねェのにな。
「ンマー、島をでるって本気なのか」
「……本気」
「どこに行くっていうんだ。お前の家はここだろう。エリノアさんが悲しむことをするもんじゃねェ」
「……アイスには関係ないじゃない! おかあさんと私のことなんか! 」
「関係ねェか? エリノアさんの気持ちを考えてみろっ! 」
「……私は……もういや! こんなとこにいたくない!」
「、親孝行はな……生きてるうちしかできねェんだぞ。お前は」
「アイスバーグにはわからないわ! 私の気持ちなんか、なんにもわからない!」
「俺が憎いか? 」
「……」
「俺が憎いんならそれでいい。俺を憎んで生きていけ」
と俺の会話に、俺が奪っちまったことがあがることはなかった。は思い出したくもなかったんだろう。
俺は、そんなことを持ち出したら、どうしようもなくを求める心が出口を求めて暴走してしまうからな。
愛している。愛しているのに、告げられねェジレンマ。そんなもの全て封じ込めて、冷ややかな眼でみる俺に、は、何を思っただろう。泣かれると覚悟を決めていたのにな、の涙を見ることはなかった。
俺はから……涙さえ奪ってしまった。
俺をきっと睨む瞳の中に、悲しみが浮かんでいる。褪めた瞳で俺を睨むは、青白い薔薇だ。グレーにも見える赤みのいっさいない青白い薔薇。
俺は、お前を愛しているのになァ。他のものを寄せ付けねェ神秘な色にしちまった。
俺の望んだお前の色は、真っ白に淡いピンクをとかした色だった。儚げな淡い紫色もお前によく似合っていたのになァ……。
俺のやる気のねェ説得は、空しくの背中を素通りして、はこの町から姿を消した。海列車に乗ってセント・ポプラに移住しちまった。
俺は、いつか政府に狙われるだろう。いつだって、俺の弱みはだ。過去も未来も現在もな。
俺の思い人でいるかぎり、の命は危険にさらされる。それならば、俺のそばにいねェほうがいいってもんだ。
俺は、のそばにいて、俺の思いが誰かにばれねェ自信はねェからな。
ンマー、そう自分に言い聞かせてもな……
ぽっかりと心に穴が開いちまったな。