涙さえ奪って〜ヒロインサイド〜

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10a、波乱


 フランキーは気軽に言う。
「会いたけりゃ会えばいいじゃんよ? 何難しく考えてんだ。うかうかしてると他の誰かにとられちまうぞ? 」
「フランキーはいいね。単純で」
「単純って、おまえ!? そりゃ酷くねェか? 」
「ふん、単細胞! 」
「俺に喧嘩売ってもしかたねェぞ? おまえ、俺に喧嘩ふっかける勢いでアイスバーグに怒鳴りこみゃいいのによ」
「……売っても買ってくれないと思うけど」
「ん〜〜〜〜確かに。そりゃそうだわ。あいつがおまえと喧嘩するとは思えねェ」
「でしょ。いつまで経っても……私は子ども扱い」
「仕方ねェんじゃないの〜。ちびんときからずっと見守ってきたおまえをいきなり女としてみてくださいなんてよォ、俺だってできねェ」
 ムカつく。ピキっと眉毛が上がる気がした。
「十五にもなって、男の膝にひょいひょいのっかって、甘えりゃっイテ! おまえ殴るなよ! 」
 ゴンっと頭に一発こぶしを落としてやった。
「そんなの……わかってるもん」
 プイっと横を向く私に、フランキーのため息が聞こえる。
「アイスバーグはな、おまえのこと、すっげー大切すぎて見えてねェんだろうよ。もうちぃ〜〜〜と様子みとけって」
「いつまで? 」
「知るか! バカ!! 」
「なによ! バカンキー! 」
「俺にやつあたりすんなって! 、好きならぶつかってみなきゃいけねェ。どうせ、アホバーグのことだからよ。あいつからはこねェぞ。あいつは妙に真面目だからよ。あいつ、俺たちがつきあってると思いこんでんだろ? それなのに、手出しちまった。潔癖なあいつにしてみりゃ、自己嫌悪に陥っても仕方ねェんじゃね? 」
「なんか聞いてると、私がバカみたいに聞こえるんですけど? 」
「今頃知ったか? バーーーカ。ごちゃごちゃ言ってねェで、アイスバーグんとこ行って来い」
「イ〜〜〜ヤ」
「強情っぱり。あのな、アホがナタ振り回したこと覚えてるか? 」
「覚えてるよ。二十になるまで待てってヤツでしょ」
「その前に、『ンマー、そりゃねェだろ!! 』って叫んだときのあいつのツラ、おまえが見てたらよ。んなに悩むことねェのによ」
「……見てないこと言われても困るよ。どんな顔? 」
に惚れてますってツラだ。俺に盗られてむちゃくちゃ焦ったツラ。うそついた価値があったぞ。思い出すだけで、笑える」
 ゲラゲラと笑い転げるフランキーを、私は疑いの目で見る。信じられるわけがない。

「あいつが言い出したことだから、も二十まで待ちゃいいんじゃねェか? 俺にそう言ったってことは、あいつの大人の基準は二十なんだろ? それまでは、いままでみてェに子どものふりして膝にのっかってキスしてりゃいいじゃん? 」
「いやだもん。もう子ども扱いはうんざり……」
「しかたねェだろ? じゃあこのまんま会わねェで、気が済むか? 会って来いって。今いかねェとドンドンいけなくなるぞ? 」
 ごもっともなご意見だ、と思った。

 アイスバーグの膝にのっかり堂々と甘えられることは、私にとって……大好きな人を独占できる大切なコトだけれど、自分が子どもだと思い知らされるコトでもある。それに気がついてしまった私は、もうアイスバーグの元に通うことができない。どんなに私は大人になった、と訴えても、アイスバーグの目に映る私は幼い日の私でしかない。そう思うと、アイスバーグのキスに夢中で応えてしまった自分が惨めで仕方なく……やるせなかった。
 もし、アイスバーグに『ンマー、すまねェな』なんて謝られたら……私はどうしたらいいの? アイスバーグからそんなことを言われるのが、イヤだった。そう言われるかもしれない……と思えば思うほど、アイスバーグに会いにいけない。私は幼い恋を守ることに必死だった。


 そんなうじうじとした心を抱えたまま、月日はどんどん過ぎていった。フランキーの言ったとおり……あの時、アイスバーグに会いに行かなかった私は、アイスバーグに会うこともなく、ただ悪戯に年を重ねていった。
 十六、十七の誕生日。キスをねだりに行けばよかったのかもしれない。
 アイスバーグの二十七、二十八、二十九の誕生日……キスをしに行けばよかった。
 十八の誕生日、幼い頃の約束を胸にして……アイスバーグがくるのを待っていた。絶対……来てくれると信じていた。でも、アイスバーグはこなかった。私はフランキーが言うように、二十に望みを繋ぐことで、なんとかその日の悲しみをやり過ごした。アイスバーグの三十の誕生日、私の十九の誕生日……あと一年、もうすぐアイスバーグのいう大人の基準、二十がくると自分に言い聞かせて涙をぬぐった。
 フランキーが散々、「意地張ってねェで、行けって」と言うのが、余計なおせっかいのように感じ、しょっちゅう喧嘩した。最後に言い負かされて泣いてしまう私を、オロオロとなだめるフランキーが支えのようで、そばにいてくれることが嬉しかった。


 海列車完成から四年、他の島に渡る線路も完成し、トムおじさまの偉業が世間に認められ、町中がトムおじさまの免罪を信じている。
 もうすぐ……私は二十になる。私は二十になる前にトムおじさまの判決が下されること、それが節目のような気がして……アイスバーグに会いに行こうと決めていた。

 それが……あんなことになるなんて……。

 トムおじさまはそんな人じゃない! アイスバーグやフランキーが司法船を襲っただなんて、そんなことするわけがないじゃない……。何を見ているの!!! 町の人はトムおじさまのどこを見てきたの!!!
 いや、トムおじさまを連れていかないで……アイスバーグ、フランキー!!!
 ああ、ダメ! フランキー!!! 
「やめてっ! フランキー我慢して! 」
 やだ、私から離れていかないで、フランキー!!! どうなってしまうの……ここで暴れちゃったらフランキーはどうなってしまうの……。
 呆然と立ちすくむ私に、アイスバーグの声が聞こえた。

、こいっ! 」
「アイス! フランキーが!? 」
 泣き出しそうな不安を抱える私を救う人……アイスバーグ…………こんなときなのに、私はアイスバーグに会えたことに心が踊った。アイスバーグに荷物のように担がれたことも気にならなかった。トムおじさま、フランキー……二人の顔がぐるぐる頭の中を駆け巡り、絶望感に包まれる私にとって、アイスバーグから伝わる温もりが私を救うただひとつのものだった。


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