十六、十七、十八のを、俺は知らねェ。
二十七、二十八、二十九の俺を、は知らねェ。
ンマー、あれから、俺はがむしゃらに働いた。海列車の線路をひたすら引いた。トムさんの罪が帳消しになるように、半場、意地になって仕事に打ち込んだ。
俺には、それしか残されてなかったからな。
ガキの頃の約束を守ることもできなかったな。
『ンマー、お前が18になったら考えるよ』
『ほんと? 』
『ああ、本当だ』
『ぜったい? 』
『ああ、絶対だ』
今さらなプロポーズを、が喜ぶハズもねェ。
真剣な俺の思いを、ちびだったに伝えておいたら、もっと違ったかかもしれねェが、もう遅いってもんだ。
ンマー、泣かせることしかできねェ俺が、どのツラさげてに会えばいいのか、わからなかったしな。あれから、も会いにこねェしな。こねェんなら、行けばいい。そうも思ったが、辛そうなの顔を思い出すだけで、気がそがれる。
後ろめてェんだな。拒絶されるのが怖ェんだ。にこれ以上嫌われたら、俺は……な。
から会いにきてくれるのを、待っているんだが、こねェな。
同じことばかり考えていても無駄ってもんだ。今、目の前にある現実に眼を向けて生きていくしかねェ。
海列車が海を渡ったあの日から、四年が経った。俺たちは、残りの三本の線路を完成させた。俺は、三十になった。
二人は、俺の監視がなくなってからも、頻繁に会っているみてェだ。
十六、十七、十八のを、フランキーは知っている。
二十三、二十四、二十五のフランキーを、は知っている。
そして、まだ俺が見たことのねェ十九のを、フランキーは知っている。フランキーは二十六になった。ンマー、年頃の男と女。七才の年の差なんか、まったく問題ねェな。
俺は、まだを愛している。
ンマー、忘れられるはずがねェな。俺が半分育てたようなもんだ。
レールを一本引くたびにトムさんの罪が許されていくようで、俺の心も軽くなっていく気がした。
俺は、あの時、に真剣に謝ることすらしてねェ。子どもをちゃかすように扱ったな。十五の小娘って扱いに、が怒らないわけねェじゃねェか。大人として接するべきだった。あまりにも近い関係は、俺の眼を曇らせていたな。に打ち明けるべきだった。男としてみられてェんなら、同じ土俵に立つべきだった。
泣かすことを恐れて、俺は大事なことを忘れていたな。真剣に向き合いもしねェで、が俺を見てくれるハズがねェ。
会わねェでいた日々は、俺に安らぎを与えるはずもなく、ただ、たまにフランキーとココロさんの会話からこぼれるの近況が慰めだった。は、エリノアさんそっくりになったそうだ。町中の若い男たちが、かつてエリノアさんに夢中になったみてェに、に惚れているらしい。ンマー、ムカつく。
俺が摘むはずだったの十八の時は過ぎ、フランキーに待て、といった二十の時がくる。ンマー、フランキーがそれを守っているかわからねェが、守られてなくてもいい。俺が最初の男でなくても、最後の男になれれば、いいからな。
俺は、トムさんの免罪の判決が下されたら、に会いに行こう、と決めていた。
ンマー、その俺の計画は、あっけなく崩された。あまりにも汚ねェ世界政府のやり方にな。
トムさんは、エニエスロビーに連行されることになっちまった。俺とフランキーをかばって、トムさんは二度と帰れねェ場所に行っちまう。
俺たちの親父だ。俺は、いくつの時からトムさんに育てられたか覚えてねェがな。
いつだって、トムさんは、フランキーが何の悪さをしたって殴らなかった。面白がって笑っていた。そのトムさんが、フランキーの言葉に怒りをあらわにした。俺は、そんなトムさんに驚いた。
『どんな船でも……造り出す事に、”善”も”悪”もねェもんだ……!!
この先お前がそんな船を造ろうと構わねェ!!
……だが、生み出した船が誰を傷つけようとも!!
世界を滅ぼそうとも……!!
生みの親だけは、そいつを愛さなくちゃならねェ!!!
生み出した者が、そいつを否定しちゃならねェ!!!
船を責めるな 造った船に!!
男はドンと胸をはれ!!!!』
『わしはロジャーという男に力を貸した事を、ドンと誇りに思っている!!!』
『罪名が14年前に戻っても……何もかも昔とは違う。
この島は、今や力に満ちている。
これからさ……わしの身に何が起きても
わしは町の力になれる、
わしの夢はやっと走り始めたんだ……』
トムさんの思い。それがなんでわからねェんだ! バカンキー!
トムさんの気持ちも汲めねェであのバカは、暴れちまった。俺だって暴れてすむもんなら、暴れたかった。
ンマー、しかしだ、我慢しなければならねェ。悔しくても、俺まで暴れちまったら、誰がトムさんの意思を継ぐんだ。俺は、トムさんの意思を継ぐことだけ考え耐えた。一番弟子の俺がこれからしなければいけねェことをな。
ンマー、すねちまったところも少しあったしな。トムさんにとって、一番可愛かったのは、俺じゃねェんだとか、くだらねェなァ、オイ。そんなバカな考えは、夜、俺の体から解け出ていったがな。
喧騒の中、久しぶりに見たは、フランキーが暴れるのを、眼にいっぱい涙をためて
『やめてっ! フランキー我慢して!』
と叫んでいた。
港が喧騒にのまれ、のいるところにまで、被害が広がっていった。
俺にできることといったら、フランキーを逃がすことと、を担いでその場から逃げ出すことくらいだった。
「、こいっ! 」
「アイス! フランキーが!? 」
久しぶりに見るは、爽やかな匂いを放つ淡い紫色の薔薇だった。朝露を纏う儚げな花に、俺の心は捉えられ堕ちていった。